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「アーヴィングとはどう? うまく話とかできてる?」 「そう、ですね。多分」 リシェが勉強の合間に訓練場へ惜しみなく通っていたように、今度はアーヴィングが訓練の合間に此処へ通っているらしい。 仲睦まじい様子に凄くほっこりする。 「幸せ?」 「はいっ。 正直、今もまだ夢なんじゃないかと思うくらいに……」 「そうだよねぇ。 ふふ、ちゃんと現実だからね」 「…本当に、助けていただいてありがとうございまs」 「あぁーいいから!もう十分貰ったよ!」 再びじんわり目が潤んできたリシェに、わたわた両手を振る。 「今はまだ療養中だけど、元気になったらずっと同じ時間を過ごしたいよね?」 「はいっ。許されるなら、ずっと」 「うん、そうだよね。ならね? ーー僕から、ひとつ忠告があるんだ」 「…………ぇ、」 びくりと、細い身体がビクついた。 ごめんね。実は、これを言うために今日ここに来たんだ。 恐がられてしまうかもしれないけど、でもふたりの未来のためによく聞いて欲しい。 「この国の王族が、君のことを狙ってる。 まだ番がいないし、パドル様の元からも離れたから是非会いたいって」 「え……」 十数年ぶりに現れた貴重なΩ。 片方は陛下であるラーゲル様の番だったけど、もう片方にはまだ番は現れていない。 「この国の安定は僕によって保たれた。 だから、もう片方のΩを欲しいって」 「そ…んな……」 今はリシェの傷もまだ癒てないし、無理はさせられないとラーゲル様が止めている。 だが、それでも「面会だけでも」と食い下がってくる王族がとても多い。 「君は、アーヴィングに〝僕らは運命の番です〟ってちゃんと告げた?」 「……っ、いいえ」 「だよね。きっと〝運命なんて関係なく番(つが)おう〟ってなったんだよね? それは本当に綺麗なことだと思う。運命すらを凌駕する絆というか…本当に心が通いってるんだなぁって。 ーーけど、どうかそのままにしないでほしい」 『彼はアーヴィングと番う予定だ』とちゃんと話した。 けれど、王族は『そんなものただの擦り込みだ』と言う。 一緒に過ごす時間が長かっただけだろうと。 一度離れてみれば、そんな想い消えるかもしれないと。 『大体、運命の番でもないじゃないか。 それなら我々にだってチャンスはあるはずだ』と。 ……正直、反論ができなかった。 「僕は運命だって気付いたけど、これは本能的な部分からくるものであって根拠とかが何も無い。 うまく説明ができないし信じてくれる人も少ない。 だから、ちゃんと君の口から言って欲しい」 〝僕と彼は運命の番なんです〟と。 アーヴィングにも、この国の王族や民にも告げて欲しい。 じゃないと、リシェが危ない。 「頸を噛んでもらうのは、いつ?」 「体調が、回復してからと…アーヴィング様が」 「それだと遅いかもしれない」 僕らは、頸を噛まれたら終わりだ。 いくら運命があっても、噛まれた相手と添い遂げなければいけない。 「出来るだけ早い段階で噛んでもらったほうがいい。 今は兵士たちが厳重に警備してるけどそれが完璧ってわけでもないし、躍起になってる王族が変な手を使って襲ってくるかもしれない」 「……っ、」 アーヴィングは強い。彼が指揮する兵士だって勿論。 でも、これは一生に関わること。 もしもが起こって後悔することになっても、もう後の祭り。 「僕との話が終わったら、アーヴィングと話をして。 ちゃんと〝僕とあなたは運命の番です〟って言って。 みんなも分かるような確かな形にしておいたほうがいい。 わかった?」 「は、はぃ。 ぁの、お教えいただき…ありがとう、ございます……っ」 「全然全然っ!陛下からもこのこと話していいって許可貰ってたしね。 大丈夫、大丈夫だからね」 立ち上がって、カクカク震える身体を布団の上からぎゅうっと抱きしめる。 怖いよね。不安にさせちゃったね。 (アーヴィングに「運命だった」と分からせ番になれば、きっと後はラーゲル様がやってくれるはず) 迅速に王族や民に伝えてくれる。 そしてリシェがある程度回復し次第、早急に告知の場を設ければ…… 「ねぇ、因みになんだけど、どうしてアーヴィングはリシェの体調を気にしてるの? 噛むなんてことすぐできるじゃん」 案外ロマンチストとか? ちゃんと素敵な場所で、愛を述べながらみたいな……? 「ぁ、それは…その……」 「……?」 「が、我慢ができなくなるから…だ、そうで……」 「………あぁー…なるほど……」 (そう言えば、ラーゲル様も噛んだ後凄かったなぁ) αにとって〝頸を噛む〟という行為は強い興奮なんだろうか? 確か全然離してくれなくて、ベッドから出られなかったなぁ。 今でも抱かれる時は絶対噛み跡をキスしたり甘噛みしたりしてるし、そんなもんなのかな? (うぅむ……でも、こればっかりは背に腹は変えられないってやつだよね) 仕方ない。アーヴィングには我慢してもらう。 「ぷはっ、」 震えが落ち着いた頃、リシェを離すと真っ赤っかの顔。 「これからが楽しみだねぇリシェ」 「〜〜っ、は、恥ずかしいです……っ」 あぁ初々しい。可愛い。本当に可愛い。 さっきまでの緊張は少し過ぎ去って、お互いクスクスと笑い合った。

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