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結果オーライ

   焦り過ぎた俺は、ちょっと計算違いをしたらしい。  ゴールデンウィークを終えて寮に戻ると、俺と衣笠は思わぬ孤立をしてしまった。  帰ってきたら、寮内に公認同性カップルが8組、成立秒読み数組、バイセクシャル公言数名……。俺たち以外の全員が、男OK! の異様な雰囲気。  一歩間違えば衣笠は大学を辞めてしまう可能性もある異常事態。ギリギリの綱渡り。  俺のせいだ。  あれは言葉のアヤなんだ。言いたかったのは『衣笠をからかいの対象にするな』って事だったんだけど、実際に口をついて出たのは、 「衣笠に手を出すな! あれは俺のだ、解ったか!?」  『解ったか』って……俺がいちばん解んねえよ。何言ってんだよ。  衣笠の顔が……体つきが……風呂の時間を合わせてじっくり観察しよう、などと話が進むのを見かねて、たまらず大勢の前で啖呵を切ったのだ。  そのまま連休に突入し、帰省した衣笠と俺以外の連中は寮に留まった。  休みが明けたら、学内寮生が残らず“薔薇の花咲く新しいステージ”に進んでいたのだ。  ……それって俺のせい?  確かに意味深な言い方だった。それは認める。  でもさ、同性カップル誕生! と思い込んで、刺激された連中が連休中に何に勤しんでいようと、俺に関係なくない?  結果、「お前が居てくれて本当に良かった! 綿貫が居なかったら、僕ひとりでここには居られないよ。これからもよろしくな? 親友!!」と肩を組む程の絶大な信頼を得たのだから、作戦は失敗ではない。  余談だけど、巷に溢れる〝男の落とし方〟の中でも、上位に入る方法をご存知だろうか? 老いも若きも「筋肉を褒める」とイチコロだ。筋肉、筋力を誉められると、大抵の男は『この人は俺の味方だ』と認識してしまうのだそうだ。男なんてそんなもんらしい……。  寮の風呂が同性カップル用のルールに変わり、毎日衣笠と風呂に入ることになった。  最近は、俺が洗い場にいると、湯船から衣笠の視線を感じる。衣笠がしんみりと『良く鍛えてるな』『凄い二の腕だな』『後ろから見ると逆三(角形)じゃないか』などと評する度、(くすぐ)ったくて誇らしい気持ちになれる。  こんなご褒美に踊らされ、また明日から頑張ろうと思っちゃうんだから、俺もちょろいなぁ。  やっと衣笠の親友になれました。  でもね、“綿貫は絶対ノーマル!” の条件付きな訳で!  『親友』が、俺の希望じゃない訳で!!  この夏、どうにかしたい案件な訳で!  ……どうにかしたいけど、どうにもできない。  寮生全員が「男もアリ」と気付き、敵(恋敵の方)の数が圧倒的に増えてしまったのは誤算だ。  なにしろ夏は暴走しやすい季節だ。これから増々、あいつの周りから目が離せない。  

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