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2.車内のヒーロー1
学校帰り、電車に揺られる。
今日は6時間目の体育が持久走。その後の部活だったから、凄く凄く疲れてる。
走るのは苦手だ。陸部や永遠走ってるサッカー部の奴らなんかは、ホント偉いと思う。
俺にとっては自ら長距離走りに行くなんて、とんだドM行為だ。
各駅からの乗り換えで、車内が少し混んできた。
俺は乗り換えて始発からだから、いつも座れて楽してるけど。
近くの立ち乗りの人を見渡す。
幸い、お年寄りの姿はないみたいだ。
妊婦さんぽい人も居ないし。
安心して腰を落ち着ける。
しばらくスマホを弄って過ごしていると、若い男の声が聞こえた。
凛とした、力強い響き。
「この人、痴漢です」
辺りがざわめく。
顔を上げると、そう遠くない場所で、相手の手首を掴んだ男の手が見えた。
随分と高いところにある。
痛そうにうめき声を上げる痴漢は、自分よりも10㎝以上高い男に、吊り上げられているようだ。
車内アナウンスが、次の駅名を告げる。
──ヤバい、次降りる駅じゃん。
スマホを切って、ポケットにしまう。
電車が速度を緩め、駅へ入った。
ホームを歩きながら、さっきの痴漢はどうなったのか気になって、辺りを探した。
他にも何人もの人間がそちらを見ていたから、当事者が何処にいるのかすぐに分かった。
まず目に入ってきたのは、痴漢男を捕まえていた方の男だった。
やっぱり、凄く背が高い。
185…いや、190近くある?制服を着ているから、高校生かな。
駅員に突き出された男は、大学生ぐらいの背の低い……や、相対的に低く見えるだけで、俺と同じ、175くらいはあるかもしれない。
痴漢に遭っていたらしき女の子は、沿線の私立女子高の制服を着ている。
…そりゃそうか。ヒーローの登場に、目をキラキラさせて、痴漢されたことのショックよりも、王子様の存在に心奪われているようだ。
周りの人もそこを気にしているから、なんとなく列の進みが遅くなってる。
彼らの脇を通り過ぎる。
ふと、ヒーローが視線をずらした。
──あ、やべ、目があった。
顔を戻して、列の流れに身を任せる。
「すみません、すぐ戻ります!」
さっき、「痴漢です」って言ってた声だ。
背が高い男特有の相撲取りみたいなくぐもった低さも無く、耳にすんなり受け入れられる声。
背が高い、カッコいい、声もいいじゃあ、女の子にもさぞモテんだろうな…。
漢 だなぁ、と思う。正直恰好いい。
スマホに夢中で気づかなかったけど、でもいざ気づいたとしても、俺なら咄嗟に女の子を助けることなんか出来ただろうか。
あんだけ背も高くて、相手捻りあげちゃうくらい力があれば、……なんつーのは言い訳にならない。
多分俺ぐらいの背丈でも、ああいう奴ってのはやってくれるんだろうな。
……うん、それがヒーローだ。
「あの!有栖川 蓮 さんですか!?」
「えっ…?」
手をクイ、と引かれて振り返る。
───ヒーローだ。
ヒーローが、俺の手を掴んでいる。
近くで見ると、壮観だな。
ホントにでっかい。俺も別に小さい方じゃないのに、見上げなきゃ、顔が見えない。
女の子と付き合うの、大変そう……。
「ここだと皆さんの邪魔になるので、すいません、脇に逸れましょう」
「えっ、なに…?」
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