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3.車内のヒーロー2

列から連れ出されて、ベンチに座らされた。 なんだ?なんでヒーローに、手を掴まれたまま……? 顔を上げると、道行く人たちの視線が突き刺さる。 ……っ!? えっ…!? 俺も痴漢だと思われてる!? 「あのっ、俺……っ、そういうことやらな――」 「すみません、突然」 頭を下げられた。 なんだ?ヒーローが頭を下げている。 俺が、悪いことされた方……? ──もしやヒーロー、俺に痴漢を……!? って、された覚えねーし……。 もう可愛くない『男』の俺に痴漢する男なんかいねーし。 「あの、有栖川蓮さん…ですよね?」 「っ…なんで、名前…っ!?」 もしやこれは、事情聴取なのか!? 痴漢冤罪、捕まったら退学? この男、もしかして高校の制服を着た、鉄道警察とか!? そうだ!だってすげーでっかいもん!高校生の背丈じゃねーよ。 俺、張られてた!? 毎日ただ大人しく座って下校してるのに!? 痴漢する隙なんてねーじゃん。隙があったってやんねーよ! でも、やってません、とこっちから言い出すのも妙な話だ。 相手はきっと、こっちの出方を待っているんだ。 なるべく不審に見えない方法で、己の身の潔白を晴らすには………。 「やっぱり!───よかったぁ」 大きな声に、ビクッとして見上げる。 ヒーローはホッとしたように息を吐き、──笑った。 ……なんでだ。なんで満面の笑みなんだ…? しかもこいつ、やたらとキラキラしてやがる。 改めてその顔を見ればたいしたイケメンで、正義感強くて助けた女の子からのラブラブ光線受けまくりとか………、完全男の敵じゃねぇか!! そいつが俺に、やった覚えのない痴漢行為を責めてくる、とか……。 もうヒーローかどうかなんてどうでもいいっ! お前、警察官になるかリア充爆ぜるかどっちかにしろーっ!! 「俺、館林(たてばやし) 緋彩(ひいろ)って言います」 「……はい…」 体の力が抜けたじゃないか。 なんで、急に自己紹介……? しかもヒーローだからって、何も本名『ひいろ』じゃなくても…。 「……アリス…ちゃん…、俺のこと、覚えてませんか?」 「え…?」 思わず不機嫌な声が出た。 アリスちゃん、なんて呼ばれていたのは小学生までで、もう何年もその呼ばれ方は使われていない。 そう呼びかけた奴を、もれなく俺がボコるからだ。 アリスでギリだ。 アリスだったら、ボコ、ぐらいで勘弁してやってる。 だけど相手は眉を顰めた俺を気にする様子もなく、キラキラした笑顔で俺の手をぎゅっと両手で握りしめた。 「貴方に会いたかったんです」 デカい手だな……。 それに、ごつごつしてる。 なんか運動やってんのかな…? こんな手ぇデカかったら、バスケのボールとかも片手で持てちゃいそう……。 そうぼんやりと考えて、そしてハッと思い当たった。 「お前もしかして、藍の先輩のバスケ部の奴か!?」 「あっ!やっぱり有栖川さん、話しててくれたんですね」 「藍に言い寄ってるキモいイヌの先輩……」 「…酷いなぁ、なんですかソレ…?」 拗ねたように口を尖らせる。 「藍がそう言ってた。自分のこと好きなら、ぜってーホモだとかなんとか」 「ホモじゃないし、言い寄ってないし…」 なんだ、藍の勘違いか…。 だよなぁ。ヒーローが、キモく言い寄るわけがねーじゃんか。 なんとなくホッとして、背もたれに背中を預けた。 無駄に気を張った。 お前のせいで疲れたじゃねーか、コラ。 「これから少し、時間ありますか?」 「時間…?別に平気だけど」 時計を見ると、そろそろ6時半になろうとしている。母さんが、メシ作ってる頃かも。 「じゃあ、少し待っててもらっていいですか?」 「あ、…うん」 「すみません、すぐ戻ります」 立ち上がり、さっきの場所へ駆けていく。 心細げにしていた女の子の顔が、ヒーローの再来にパァッと輝いた。

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