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4.ヒロとリュウ1
少し歩いても平気ですか、と聞かれたから、別に構わない、と答えた。
部活帰り、疲れちゃいるけど、少し歩くくらいなら平気だと。
…………隣の駅まで歩くとか聞いてないぞ俺は!!
「その節は、ありがとうございました」
館林緋彩が頭を下げたのは、俺が中一のころの出来事に対してだった。
多分学校が休みの日か、放課後一度家に帰った後だったのだろう。
制服を着てたら、流石に美少女に見えた当時でも女に間違われることはなかったと思う。
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「あ、僕あっち」
「俺あっちだから、ここでな。じゃーなー、アリス」
「うん、バイバ──っ!」
友達と手を振って別れた瞬間、誰かがぶつかってきた。
「あっ…ごめんなさい!」
小学生の男子だった。
小学生……だよな。雰囲気は小学生なのに、背は中学生の俺より高い。
見上げると、その瞳は涙の膜で覆われていた。
「どうしたの?」
怖がらせないよう、優しく訊ねる。
「家に帰ったら、リュウがいなくなってて…」
「リュウ?……弟?」
「イヌ…。探してるんだけど、ぜんぜん見つかんなくて…」
イヌの迷子か…。
空を見上げる。
そろそろ夕焼けてきたな…。
いくらデカいとは言え、小学生を一人で歩き回らせられないし、この子は見つかるまで探し続けそうな勢いだし……。
───仕方ない。
「じゃあ、一緒に探そうか」
声を掛けると、小学生はびっくりした顔で俺を見つめ返した。
「いいの…?」
「うん。1人よりいいでしょ」
「ありがとう、アリスちゃん!」
ちゃん…じゃ、ないんだけどな。
面倒だから、まあいいか。
「君の名前は?」
「皆にヒロって呼ばれてる」
「ヒロか。んじゃヒロ、まだ探してないとこ行こうか」
「うん!」
そうして暫く2人でリュウを探し回って、漸く見つけたときには陽はすっかり陰り、別れて家に帰った俺は母さんに散々叱られた。
苦い…思い出だ……。
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