6 / 34
6.好きになってしまいました1
ヒロの家は、隣の駅から10分くらいの住宅街にあった。
一軒家かよ。羨ましい…。
こういう家には、しあわせいっぱいの家族が住んでいるのだと思っていた。
門の脇に見えた犬小屋は、主が不在のまま……ぽっかりと穴をあけたままだった。
なんか、堪んなくなって、全然関係ない話題を探してみる。
そう言えば───同じ沿線に乗ってて、どうして今まで会わずにいたのだろう。
訊くとヒロは、「俺が乗る場所、いつももっと後ろの方ですから」と答えた。
うちの駅の改札は上り寄りだけど、こっちの駅は下り側の端にあるんだっけ。
今日は、友達ん家に寄ってひとつこっちの駅から乗ったから、いつもと違う車両にいたらしい。
リビングの隣の和室に通された。線香に火を付けて、リュウの遺影に手を合わせる。
少し待っていてくださいと言うから、置いていったアルバムに手を伸ばした。
19歳…って言ってたか。
ヒロが小さかった頃の写真のリュウは、当たり前だけどもう大人のイヌだった。
生まれたときから一緒にいたイヌ。
ペットと言うより、家族だったんだろう。
大型犬のリュウの背中に、ヒロが笑顔で跨ってる。
リュウも全然嫌な顔をしていない。むしろ、愛おしそうに…自分の弟か何かのように……。
これ、リュウのお腹でヒロが寝てる。
2人とも可愛いなぁ。
こっちの写真は、ヒロが大分おっきくなってる。
小学生?…この頃かな、俺と会ったの。
あ、小学校の卒業式の写真だ。校門までイヌ連れてくなよ~。
中学校の入学式の帰り、かな。
家の前で入学式の胸飾り付けて、リュウと一緒に写ってる。
転がったバスケットボールで遊ぶリュウ。ヒロとリュウの自撮り2ショ。これは…、リュウの19歳の誕生日ケーキ…。
こんなにずっと、一緒に生きてきたんだもんな……。
いなくなったら、悲しい。淋しいよな………。
「お待たせしました。コーヒーと紅茶淹れたんですけど、どっち飲みます?蓮さ──」
「う…、ごめ……」
零れ落ちた涙を慌てて拭う。
「蓮…さん……」
「や、アルバム見てたら、なんか…」
テーブルに、飲み物の乗ったトレイが置かれた。
慌てたように乱暴に置くから、揺れたマグカップの中身が少し零れる。
ともだちにシェアしよう!