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9.2度目の一目惚れ1
俺を見かけると嬉しそうに、手を振りながら近づいてくる。
「おはようございます、蓮さん」
毎朝毎朝ご苦労様です。
心の中では嫌味を唱えて、小さく手を上げて応えた。
ヒロの奴はあの翌日から、バスケ部の朝練がある日を除いては、隣の駅から一駅で下りて、改札の外で登校する俺を待つ日々を送っている。
俺の方が遠くまで通ってるから出るのも早い時間なんだが、終点まで行って戻ると丁度いい時間なんです、と意味のない行動を続けているのだ。
「届かなかったら俺に掴まってくださいね」
混雑したラッシュの時間帯、車内でヒロが腕を差し出す。
「いや、俺お前よりは低いけど、上の棒にも届くから」
お前が思ってるほどちっちゃくねーよ、と非難すると、残念そうに、そうですかと返された。
俺の何処に、男に惚れられる要素があるってんだろう…。
はっきり言って、顔だけだったら結構女にモテてる方だと思う。
ずっと電車で見ていましたって手紙を貰ったこともあるし、合コン行ったら黙ってても女の子が寄ってきてくれる。
クラスの女子にも、顔だけはいいよね~、と良く言われる。
いや、褒められてないことはわかる。ちゃんとわかってる。
男からも、中2の背が伸びた頃から、ヘンな目で見られなくなったように思う。
知らない大人の男にも声を掛けられなくなったし、友達だと思ってる奴から妙なやさしさを受けることもなくなった。
執拗にボディタッチしてくる奴もいなくなった。
「っ…と」
急カーブで電車が揺れた。
体勢を直そうと思った瞬間、強い力で腰を抱き寄せられる。
「大丈夫ですか?」
「………お…前なぁ……」
胸に手を当て押し返した。
「俺は女じゃないから平気なの。変な目で見られるだろ」
ほら、前の席に座ってるサラリーマンが眉根寄せてる。
絶対こいつらホモだとか思われてる。
「すみません。でも蓮さん、丁度いい位置に腰があるから」
「…………」
んだとコノヤロ、ちょっとデカいからって調子乗りやがって…。
「俺ムダにデカいから、170以上ある方がキスもしやすいし」
キスとか言うな…、思い出しちゃうだろうが。
「蓮さんはどういったタイプ……の女の子が好きなんですか?」
「えっ?…そうだなぁ」
よし、男子高校生っぽい会話になってきた。これで誤解が解ける。
皆の者、刮目すべし!
俺は女の子が好きなんだ!
「背の低い子が一生懸命見上げてくるのとか、可愛いよな。キスの時背伸びすんのとか。俺、女の子っぽい子がいいな。フリルとかレースとか」
「背の低い…蓮さん……。ああ!可愛いです!」
「なんで俺だよっ!」
ああぁ…、誤解を解くどころか、益々確信に近づけただけじゃねぇかよ……。このヘンタイヤローが。
近くの女子高生たちまでこっち見ながらコソコソ話し出した。
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