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10.2度目の一目惚れ2
あの時ヒロは、好きになってしまいました、と俺に言った。
冗談じゃ、なさそうだった。
「えっ、だってお前、藍のことが好きだったんだろ?」
言い寄られてるって、そう言ってた。
ぜってーホモ、とも言ってたけど……。
「そんな…っ、それは誤解です!」
「誤解って…」
なんだ、それ。彼女に一生懸命言い訳してるみたいな……。
「初め、その…妹さんがアリスって呼ばれてるのを聞いて、顔を見たら面影があったから、だからてっきり彼女がアリスちゃんだと思っちゃって」
「で、…言い寄ってたんだろ?」
「違いますっ!」
テーブルを斜めに挟んで、必死に言い募る。
こっちに踏み込んでくる様子はないみたいだけど、ちょっとビクビクしてしまう。
「リュウの中でもきっとアリスちゃんが助けてくれたことは想い出になってると思うから、お線香をあげてもらいたいと思って、そう声を掛けてただけです」
「だってお前、アリスのことで頭いっぱいになったって……、そんで、藍に声かけてたんだろうが」
「えぇと…、それなんですが、面影は有るんだけど感じは全然変わってて……、恋とかムリって言うか…」
「一応、ここにそのムリな相手の兄がいるんだけどな」
自分でもアレを女と見るのはムリだとは思うが、いざ他人からそれを言われると、なんだか可哀想に思えてくる。
ヒロはもう何度目か分からない「すみません」をまた口にした。
「だから、想い出のアリスちゃんに浸っていたんです」
「その時はまだ、相手は女の子だと思ってたんだよな…。お前、普通に女が好きなんだよな?」
「当たり前です!でも、妹さんに貴方のことを聞いて、男だったんだって初めて知って…」
「ショックだったか?悪かったな。けどあの頃は女に間違われるのなんか日常茶飯事で、もう訂正するのも面倒くさくなってて、勘違いする奴はぜんぶ放置してやってたんだ。俺はちゃんと男の恰好してたんだから、間違う奴のが悪い。惚れてから後悔すりゃいいんだ、ザマーミロだ」
「そう…ですね……」
怒るでも困るでもなく、ヒロは優しくふわりと笑った。
「友達に話したら、そもそもそんな可愛い子が女の子のはずがない!と一喝されました」
「あぁ、そう………」
変わった…友達だな……。
可愛かったら女の子に決まってんだろうに……。
「でね、俺あの時、」
「あの時?」
「さっき、駅で貴方を見たときです。あの時、すぐに分かったんです。貴方がアリスちゃんだって」
「全然…変わってんだろーが。あの頃と今じゃ」
「でも、あの瞬間、俺思ったんです。貴方が好きだって」
そんなわけで、ヒロは俺に2度、一目惚れをしたらしい。
ある種、可哀想な奴である。
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