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12.俺を取り巻くヒエラルキー2

なんだよ、淫乱って……。ビッチって、それ男に言う言葉じゃねーじゃんか。 寧ろ、いつもイケメンがどーこー言ってるお前のためにあるような言葉じゃんかー! 「うー……っ、ヒデーこと言われた…」 「レンちゃん、大丈夫?」 近くにいた陽太が、今更声を掛けてくる。 「なんだよもーっ、モデ子いる時助けに来いよ~っ」 「ごめんごめん」 「しゃべったら喉乾いたし、俺なんか買い行ってくる」 立ち上がろうとすると、肩に手を掛けイスに押し戻される。 「いーよいーよ、俺今から自販機行くから、一緒に買ってきてやる。レンちゃんは冷たいミルクティーでいい?」 「うん、サンキュー」 ドリンク代を預けて、笑顔で手を振って陽太を見送る。 俺と陽太は飲み物や食べ物が欲しいタイミングが合うことが多くて、こうしてついでに買ってきてもらうことが多い。 優しいし、いい奴だよな。 俺の周りには、優しくていい奴が多い。やっぱ、人徳? 「陽太いつも優しい、なんて思ってないでしょうね」 「えっ…?」 冷え切った女の声に振り返る。 声を掛けてきたのは後ろの席の須賀だった。 「なんだよ。陽太、優しいだろ。いつもついでにって俺の分も買ってきてくれるんだぞ」 「あら。本当に、ついで、だなんて信じてるのね。お笑い草だわ」 お笑い草だと言う割に、その無表情に動きは見られない。 凍傷でも起こさせそうな冷え切った声に鉄仮面。 大人しい部類に入る女子だと思ってたけど、とんだ食わせ物だ。 普段は滅多に口を開かないくせに、こんなに流暢にしゃべれるんじゃないか。 「私、中学の時、陽太と付き合っていたのよ」 「えっ、そうなの?でも、タイプ全然違うじゃん」 「本来は、もっと大人しい人なのよ。私のようにね」 いや、お前のは大人しいじゃなくて、ただの無表情の不愛想だ。 俺は今確信している。 「高校に入って、陽太は変わってしまったの。一緒に同じ高校に入ろうと約束したのに、入学したとたんに好きな人が出来たからもう付き合えない、なんて笑えるでしょう?」 それを、笑えないテンションで話すのはやめてもらえないだろうか…。 「男なんて当たり前に浮気するものだから、一度ぐらい心が浮ついただけなら待っていようかと思っていたけれど、あれからもう2年。馬鹿らしくてもう一つの嫉妬心も芽生えないけれど」 それを俺に話されても、なんて返せばいいのか分からない。 当たり前に浮気するのなんか半数程度だ、って、男を擁護した方がいいんだろうか。 少なくとも俺は、浮気して女泣かす男は男の風上にも置けねぇ、と思ってるし。 「貴方の周りを取り巻くヒエラルキーには気づいていて?」 ……と、急に話が変わった。 「ヒエラルキー…って、あの、授業でやった、ピラミッド型の段階的組織構造ってやつ?」 「ええ。まず、最上層はイケメンと呼ばれる人種。これは条件なく貴方と係わることができる。スキンシップ及び名前を呼び捨てることを許されている」 「……はぁっ!?ちょっとまて!なんだその良くわかんないのは!!」 「第2層、チャラ男。陽太はここに区分されるわね。最上層がいない時に限り係わることを許される。名前にちゃんや君を付けなければいけない。自分からのボディタッチは不可」 質問するだけ無駄らしい。 話しかけているのはそっちのくせに、須賀は俺を完全無視で話を続ける。 「第3層、一般人。上層のいない時のみ話しかけることを許される。一切のボディータッチは無し。苗字を呼び捨てるまでは可」 何を言われているのかさっぱりだ。 なんだ、一般人って。 このクラス、モデ子以外はみんな一般人だろうが。 「第4層、大人しめ男子。教師からの言付けなど、特殊な事項が発生した時以外は係わることを禁ず。苗字に君を付けることが必須」 なんか……大人しく聞いてたら、段々眠たくなってきた……。 「最下層、ブサメン。直接係わることを禁ず。言付けなど特殊事項発生時は、上層の者へさらに言付けを頼むこと。この層の人間は人に非ず、名前を口にすることすら許されない」 ……なんの話だっけ…?インドの王様?平家に非ずんば…? 「貴方、こんなことを続けていたら、そのうち最下層のブサメン共に襲われるわよ」 「え………っ、なに?喧嘩?」 「忠告よ。別に貴方が、ブサメンにマワされるのを良しとするなら構わないけれど」 「マワされ……っ!? って、意味わかんねーし!そんなん良い訳ねーだろ!」 「なら、1人の男に絞りなさい。少しの意地悪もあるけれど、親切で言ってあげているの」 「って…、俺、男だぞ? なんだよ、一人の男に絞れって」 「それが嫌なら、男に色目を使わないことね。それに、アイスミルクティーなんて可愛いものを飲まずに、ブラックコーヒーを飲みなさい」 なん…だよ、意味わかんねーよ……。 色目なんか使ってねーし、コーヒー、ブラックで飲んだら苦ぇじゃん。 あーっ、もう!わけわからん!

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