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14.俺を取り巻くヒエラルキー4

「蓮、お前ヤベー顔赤い…」 「っ……るせーな。ヘンなことすんな、このスケベ!」 「スケベってお前…、いつの時代の悪態だよ」 レイジが笑う。 ホッとして、イスに座りなおした。 「そーいやお前童貞だっけ。わりーわりー」 「っ!そーいうこと教室で言うなよっ!」 顔を近づけて小さな声で怒鳴ると、レイジは悪びれない態度でニヤニヤと顔を寄せてくる。 「お前、キス下手ですぐ捨てられるんだもんなー」 「ちがっ…下手じゃねーし!」 「じゃあ、今まで付き合った相手でそっから先進んだ子は何人いた?」 「それは、だって……なんかキスしたら皆、思ってたのと違うとかって…。年上には行き成りディープなのされて、なんか怖いし」 「女怖ぇって、お前……」 「だって、なんかハァハァしてんだぞ。俺、可愛い女の子に自分から行きたい。絶対やさしくすんのに」 机にうつぶせになって、大きく息をつく。 「今好きな女いんの?」 「いない」 「んじゃ、俺を女に見立てて、試しに途中までやってみ。何処が悪いのか検証してやる」 「やだよ」 「んなこと言っていいの?俺、中学で卒業済みよ?」 「………おねがいします」 ヘンなことになったなぁ…。 可愛い女の子──には到底見えない、レイジと向かい合う。 いいか、俺。 こいつは女の子。可愛い女の子。 暗示をかけて、気合を入れる。 そう言えばアイツ──ヒロの奴、いくら好きだとは言え男相手に、良くあんな切ない表情出せたよな…。 俺、もう女に見えねーし。 昔の面影、追ってたのかな……。 女の子とキスするとき、か。 …俺どうしてたっけ? 頬に手を添えて…、あ、意外と肌すべすべしてる…。 撫でるようにあごに滑らせて。 あの時……、普通に唇を合わせただけだったのに……。 体の芯が、震えた気がした。 離れてしまうのが惜しくて、その腕にしがみついた。 もっと、って、無意識に求めてた。 あれがキスだって言うなら、……確かに俺が今までにしてきたキスは、ただ唇同士がぶつかっただけにすぎない行為だったのかもしれない。 ごくりと、つばを飲み込む感覚が指先に伝わってきた。 「蓮……」 あれ…?この声、レイジ? レイジ、顔赤い…? 「おーい、お前らそこでなにしてる~」 ハッと我に返った。 白衣に、伸びた髪をゴムで縛っただけのボサボサ頭の担任が、無精ひげを掻きながら俺たちを見ていた。 「蓮のキスの何処が下手なのか検証してましたー」 すっかり元通りの涼しい顔で、レイジが答える。 「ばっ、人前で下手とか言うなっ!」 「そういうのは人の見てないとこでやんなさい。下手糞な有栖川が可哀想だろーが」 「ヘタクソじゃないしっ!」 「おい、今日は休んでる奴いるかー?休んでる奴手ぇ挙げろ」 「先生、めんどくさいんでツッコミ待ちでボケんのやめてくださーい」 「よし、藤ヶ谷(ふじがや) 玲人(れいじ)、遅刻」 「ばっ、来てんじゃん!ズリーぞ鈴川!」 「先生付けなかった罰で、昨日も遅刻、と」 「改ざんしてんなよ、不良教師!」 2人のやり取りに、教室内に笑いが起こる。 時間切れ。 俺のキスの検証の件は、そこでお流れになった。

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