18 / 34
18.恋敵?4
パタン──と、扉の閉まる音がした。
誰かの足音が近づいてくる。
すれ違う。
制汗剤の匂いが、風に香った。
目の前で、足音が止まった。
「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」
俯いた顔を、腰をかがめて覗き込まれた。
さっきの、制服の女の子だった。
「大…丈夫……」
顔を背けて答える。
「今日暑いから、熱中症になり掛けてるのかもしれないですね。飲み物持ってますか?無ければ、すぐ近くに知り合いの家があるので…」
「いい!…平気、だから……」
変に、思われたろうか。
でも、さっきの見せつけられたうえで、今からヒロに会えだなんて、そんなの嫌に決まってる。
気遣わしげに見られてる。
顔色、そんなに悪いのかな。
逃げ出したい………けど、ここから家、遠いな。キツい。
「もう大丈夫だから。……ありがとう」
こんな弱ってるとこを見られたくなくて、手っ取り早くお礼を言って追い返した。
「そう…ですか。いえ、大丈夫なら…」
ありがとう、なんて思っちゃいない。思えるわけない。
だってこの子は、ヒロの浮気相手……いや、本命?
言ったら俺の、恋敵って奴だ。
恋敵……?
頭の中でそう考えて、なんだか可笑しくて──俺は恋なんかしてないし、アイツからも恋だなんて言われてない。好きだって言われただけだ──泣けてきた。
あー…、そうだよ。言われてないじゃん、俺。
好きにだって、いろいろ異なる意味がある。
男が男に惚れるって言葉もある。それってただ単に、恰好いいって思われるだけの惚れるだ。
あの時襲われかけたのだって、2年生ってのは他の学年より浮かれてるとこあるから、ちょっと試しに男ともヤッてみようかと思ったとか、その時の感情で突っ走っちゃったとか。
あーあ…、騙された。つーか、勘違いした。
アイツ好青年のヒーローだと思ってたのに、結局はケダモノ男子かよ。
女も男も食いたい年頃ってか。
尻ポケットのスマホを取り出して、レイジを呼び出す。
5コール目、慌てた声が応答した。
『蓮!? どうした!?』
なんだかホッとして、くすりと笑いがこぼれる。
「藤ヶ谷くーん、あ~そーぼっ」
『なになに?ドタキャン食らった?』
なんで嬉しそうなんだよ。失礼な奴め。
「家行ったけど、留守だった」
『なにそれ、小学生かよ』
「今から出るのめんどいから、俺の地元まで来られる?」
『おう、いくいく』
「んじゃ、座ってるから迎え来て」
降りる駅と、近くの電柱に付いてる住所を告げて、電話を切った。
取り敢えず、レイジが来るまでに回復しないと。
スマホを仕舞い掛けて───もう一度画面をつけた。
送っておこう、ヒロに。
明日から、迎えに来なくていいって。しばらく連絡しないって。
ともだちにシェアしよう!