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19.最下層の罠1

いつもと同じ。殆ど中身のないカバンを持って立ち上がる。 今日は部活もないし、バイトもない。 家帰っても暇なだけだし。 「レイジ、どっか遊びいこーぜ」 前の席に呼びかけると、レイジは座ったまま振り返って、指先でクイッと黒縁眼鏡を上げた。 「すまないね、有栖川君。僕はこれから委員会なのだよ」 「なにやってんの、お前。眼鏡?」 「そ、立梨(たてなし)に借りた」 慣れない眼鏡を直して決めポーズ。 度が合わなくてきつそうだけど。 「貸してない。勝手にお前が取っただけだろうが。返せ」 生徒会長の立梨がレイジの眼鏡を外そうと手を伸ばすから、その直前で奪い取ってみる。 「…うわ、きっつ。会長相当目ぇ悪い?」 「蓮…」 「…すみませーん」 大人しく返しながら、眼鏡外しても3の目になんないのな、等と嘯いてみる。 案の定、会長に鋭い目で睨まれてしまった。 「会長、眼鏡外すと雰囲気変わんな」 「そうか?」 「うん。良く見えてないだろ。目つき悪いぞ~。それもカッコいいけど」 「あっ、立梨ばっかりずるいずるい。蓮、眼鏡の俺は?」 「…なんか、胡散臭ぇ」 「ちょっとー、立梨さんの奥さんー、この子こーいうこと言うんですけどぉー」 「フザけてないで、お前はさっさと委員会に行け」 「へーへー」 ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がったレイジに、会長がペンケースを無言で押し付ける。 なんか、甲斐甲斐しい。 「それから、蓮も用事がないのなら遊んでいないでとっとと帰れ」 「用事無いけど、1人じゃさみしーじゃん。会長、いっしょ帰ろー」 「俺はこれから生徒会だ」 「じゃあ、生徒会室遊び行っていい?」 「良い訳があるか」 「仕事手伝うから」 「二度手間になるだけだろう」 「んだよ、ケチ」 散々拒否して冷たくしたくせに、口を尖らせて黙り込んだら頭を優しく撫でられた。 やれやれ、って言いたげな優しい笑顔付きで。 飴とムチ……。これが、彼女を釘付けにさせてる手腕か。 流石生徒会長。勉強になります。 「蓮、俺が終わるの待ってるか?」 「んーん、帰るよ。……2人とも、明日俺が学校休んだらお前らのせいだからなっ!あの時遊んでやれば良かったって、後で後悔すればいいんだーっ!」 「蓮、後悔はそもそも後でしか出来ないものだ」 「蓮、走ったら危ないぞー」」 教室を走り出てから、隠れてこっそり中を覗く。 気づいたレイジが手を振って、会長は腕を組んで苦笑した。

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