19 / 34
19.最下層の罠1
いつもと同じ。殆ど中身のないカバンを持って立ち上がる。
今日は部活もないし、バイトもない。
家帰っても暇なだけだし。
「レイジ、どっか遊びいこーぜ」
前の席に呼びかけると、レイジは座ったまま振り返って、指先でクイッと黒縁眼鏡を上げた。
「すまないね、有栖川君。僕はこれから委員会なのだよ」
「なにやってんの、お前。眼鏡?」
「そ、立梨 に借りた」
慣れない眼鏡を直して決めポーズ。
度が合わなくてきつそうだけど。
「貸してない。勝手にお前が取っただけだろうが。返せ」
生徒会長の立梨がレイジの眼鏡を外そうと手を伸ばすから、その直前で奪い取ってみる。
「…うわ、きっつ。会長相当目ぇ悪い?」
「蓮…」
「…すみませーん」
大人しく返しながら、眼鏡外しても3の目になんないのな、等と嘯いてみる。
案の定、会長に鋭い目で睨まれてしまった。
「会長、眼鏡外すと雰囲気変わんな」
「そうか?」
「うん。良く見えてないだろ。目つき悪いぞ~。それもカッコいいけど」
「あっ、立梨ばっかりずるいずるい。蓮、眼鏡の俺は?」
「…なんか、胡散臭ぇ」
「ちょっとー、立梨さんの奥さんー、この子こーいうこと言うんですけどぉー」
「フザけてないで、お前はさっさと委員会に行け」
「へーへー」
ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がったレイジに、会長がペンケースを無言で押し付ける。
なんか、甲斐甲斐しい。
「それから、蓮も用事がないのなら遊んでいないでとっとと帰れ」
「用事無いけど、1人じゃさみしーじゃん。会長、いっしょ帰ろー」
「俺はこれから生徒会だ」
「じゃあ、生徒会室遊び行っていい?」
「良い訳があるか」
「仕事手伝うから」
「二度手間になるだけだろう」
「んだよ、ケチ」
散々拒否して冷たくしたくせに、口を尖らせて黙り込んだら頭を優しく撫でられた。
やれやれ、って言いたげな優しい笑顔付きで。
飴とムチ……。これが、彼女を釘付けにさせてる手腕か。
流石生徒会長。勉強になります。
「蓮、俺が終わるの待ってるか?」
「んーん、帰るよ。……2人とも、明日俺が学校休んだらお前らのせいだからなっ!あの時遊んでやれば良かったって、後で後悔すればいいんだーっ!」
「蓮、後悔はそもそも後でしか出来ないものだ」
「蓮、走ったら危ないぞー」」
教室を走り出てから、隠れてこっそり中を覗く。
気づいたレイジが手を振って、会長は腕を組んで苦笑した。
ともだちにシェアしよう!