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21.最下層の罠3
罰掃除があるなら、レイジも一緒じゃなきゃおかしい。
こいつら……、俺一人連れ込んで、何するつもりだ…?
4対1、か……。
1人やたらデケーのがいるな。ラグビー部の奴、だったっけ?
───別に貴方が、ブサメンにマワされるのを良しとするなら構わないけれど。
あの女の声が、頭の中に蘇る。
てか、マワされるとか、冗談じゃねーぞ。
手に持ったままだったスマホを横目で見る。
ヒロのページが開いたままだ。これ、電話も掛けられたよな……。
でも、ヒロに、連絡、とか………
「───やっと、話せたね」
ビクリと肩が震えて、スマホが手から滑り落ちた。
背が低くて、細い男。
猿みたいだと思った。声も甲高くて、キーキー聞こえる。
「なん…だよ。別に話すくらい、教室だって…」
「俺は一度も君と同じクラスになったことがないんだ」
「じゃ…、廊下で話しかけろよっ」
「話しかけられないルールを作ったのは、君じゃないの?」
こっちの男は、肌色の肉塊だ。
何を食べたらこんなにぶよぶよ太れるのか。
体育倉庫の中は埃っぽくて、汗臭くて、胃の奥からこみあげてくる。
「そんなルール、知らねーよ」
「じゃあ、話しかけていいんだな!?」
ラグビー部の馬鹿力に、手を握られた。
ゾッとした。
気持ち悪くて、ヘンな汗が出る。
「話しかけて構わないからっ、離せよ!」
「ありがとう」
だめだ、話が通じねえ。
「俺たち、君と友達になりたいんだ」
「騙して連れてきたのは悪かったよ。でも」
「──ごめん!友達はムリっ!」
顔を背けて、突き放した。
「…………無理?」
ショックを与えただろうか。
猿の声が、震えて聞こえる。
「………仕方ないね。それじゃあ」
永沢が、目を細めて頷く。
「こんなこと、本当はしたくなかったけど……」
ラグビー部に、体をひょいと持ち上げられた。
次の瞬間、高跳び用マットに放り出される。
襲…われる───!?
ギラギラした男の目が、一身に突き刺さった。
…やべぇ……、こいつらマジだ。超怖ぇ………っ。
スマホ…、俺のスマホ、何処行った?
「…ひゃ……っ」
男の体重で、マットの端が沈み込む。
熱く湿った体が、のしかかってくる。
なんで、こんなこと────!?
息がっ…臭いが、気持ち悪い……!
「大丈夫だよ。乱暴にしないから」
デカくて、脂っぽくて、ごつい醜悪な顔が近づいてくる………
最悪だ。最悪………。なんで俺が、こんな思い──っ!?
「……ふざっけんな……!」
思い切り股間を蹴り上げた。
ラグビー男が悲鳴を上げて床に転がる。
「こんな事してテメェら、タダで済むと思ってねーだろーな」
スマホ、見つけた!
これで助け呼んで、ラグビー以外はそんな強そうでもないから、なんとか1人で、………っ!?
「あーあ、大人しくしてるんなら、優しくしてあげられたのに」
掴む寸で、スマホが蹴られて、倉庫の端に滑っていった。
手首に痛みが走ったのは、地面と靴の裏の間に挟まれたからだった。
「これでも俺、柔道部なんだ」
永沢が手首を踏んだまま、腕を開いて低く構える。
「レスリング部」
猿が、それよりも低く腰を落とした。
「相撲部」
肉塊が、ご丁寧にも四股を踏む。
ヤバい……、本気でヤバい。
肉塊に、踏まれていない方の手を掴まれ、起こされる。
こんなこと………ホントにあるのか…!?
ここ、男子校じゃねーんだぞ!!
気持ち悪い───吐き気がこみ上げる。涙が溢れる。
「たすけて……」
懇願なんて、そんなみっともない真似、やるなんて思わなかった。
ブルリ、と肉塊が震えた。
男たちの目が、けだもののそれに変わった。
心が、恐怖に支配された。
「やだ…っ、たすけてっ!」
たすけて、ヒロ────!!
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