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30.一分の一番2
見開かれたヒロの目が映ったのは、一瞬だった。
重みにガクンと身体が落ちて、抱き寄せられると同時に、唇を塞がれた。
頭よりも先に、身体がそれと理解した。
柔らかい弾力が、唇に押しあてられた。
あ…これ……。前にキスされたときに感じた、ふわふわ感。
啄むように、やさしく何度も触れてくる。
お腹の辺りがきゅんとなった。
ヤバい……、このままじゃ、流されちゃう───
力の入らない手で胸を押し返そうとするけれど、頭の後ろに添えられた手が、それを許さない。
「……はっ……ぅん……っ」
一瞬の隙をついて息を吐き出すと、開いた唇から熱いものをねじ込まれた。
舌が口の中を荒く這い回る。逃げ場をなくした舌が、熱を持った舌に絡み取られて……
「んっ……ぁ、ふぅ…ん、は…っ」
あっ……、だめっ、変な声、出た…っ。
恥ずかしくて、胸を拳でドンと叩く。
「……すみません」
唇が解放されて、うっすら瞼を開いた。
「ヒロ……?」
「ごめんなさい。……その顔で、見ないで…?」
どんな顔…してるんだろう。
赤い顔を逸らしたヒロの瞳に、もう俺は映ってない。
やっぱり、別に本命がいる?
だから、お前の中の欲望と理性が戦ってるのか?
俺じゃ、代わりになれない?
……いや、違う。誰かの代わりじゃ、俺が嫌なんだ。
結局導かれた結論は、もうヒロとは居られないってこと。
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