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3.バレちゃいました
半信半疑に細められた眼 。
真っ向から責めてくる訳でもない橘だけど、そんな相手にすら俺は生憎と適当に言いくるめるだけの話術を持ってない。
ここは素直に謝って、理由を話して、…言い分けもしておかないと。
そう思って俺は、橘に向かってガバリと頭を下げた。
「ごめんなさいっ!気持ち悪いよな?勝手に見られて。でも俺、ホントに見たくて見てる訳じゃなくて、ちょっと前から視えちゃうようになっちゃって、それで俺も困ってて、あのっ!次、骨先生の授業なんだけど、前に視えちゃった時、性病?かなんかで赤黒~く爛 れてて、気持ち悪くて吐いちゃって、だから今日の授業も出たくなくて逃げてきて…っ!」
まだ伝えたいことはある筈なのに、段々と苦しくなって言葉が途切れた。
息継ぎもそこそこに喋ったせいで、酸欠か、頭がクラリと揺れる。
体が傾いたところをバッと肩を支えられて事なきを得た。
大きく呼吸を繰り返してから、体重を預かってくれてる橘を見上げる。
「っ……はぁ…っふ……、ありがとう…」
「いや。大丈夫だから落ち着け。責めてないから」
「は…ぁ……、なにそれぇ……オトコマエすぎ……ははっ、…ふぅ……」
背中を撫でてくれるから、安心して体を寄り掛ける。
咄嗟に支えてくれてフォローまでくれる橘に対し、失礼なことしといて、更に迷惑までかけてる俺。カッコ悪い。はぁ…。
暫くそのまま橘に身を任せてると、やがて5時間目開始のチャイムが鳴り出した。
音が消えるのを待って、肩に乗せさせてもらってた顔を上げる。
「……授業、始まっちゃったよ。いいの?」
「ああ、実の所、ここにはサボりに来たから」
「俺と一緒だ」
苦笑する橘にくすりと笑い返しながら、体を離した。
背もたれに寄り掛かると、手で胸を押さえる。
さっきまでドクドク煩かった鼓動は、息が整うのと同時進行で通常通りの速さに戻っていた。
「───で、周防。今も俺のデカチンがモロ見えになってる…ってことでいいの?」
さっきまでの半信半疑な顔じゃない。
少しからかう様に軽い口調で、橘はそう訊いてきた。
「そうだよー。てかさ、体デカくても貧相なヤツもいんのに、見た目良くてソコも立派って、橘どんだけ恵まれてんだよぉっ」
体をドンっ、とぶつけると、可笑しそうにクツクツと笑われる。
「それ、原因とか分かんねえの?寝ぼけて流れ星に願った、とか」
「願うなら、寝ぼけてても『オッパイ見えるようになります様に』だわ!」
「ははっ、違いない」
橘って、初めて話したけど、こんなに感じ良いヤツだったんだ。
楽しそうに笑う横顔に、クラスの友人たちとは違う安らぎを覚える。
「ソレ、自分のも丸出しで視えんの?」
当然の疑問に、指差された自分の股関を見下ろす。
さっきも確認したけど、やっぱりそこには見慣れた制服のスラックスの布が見えるだけだ。
「俺のは普通。…つか、自分の視えてたら恥ずかしくって外出らんないし!」
「他の奴からは視えないのに?」
「視えなくても、なんか気まずいだろぉっ!」
「俺のはガン見してたのにな?」
「あっ…れはぁ!……御神木を拝んでたの!」
「そういう事にしておくか」
笑いながら、頭をクシャッと撫でられた。
もーっ、と口を尖らせながら足をバタバタと振り回す。
「……あっ、でも…」
脚をパタ、と止め隣りを見上げる。
「俺だけ視てるの悪いから、橘も俺の、見る?」
「っ…………」
───あ、固まった。
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