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9.急展開
ベンチの上に立ち膝して、ん!と腰を突き出せば、橘は分かりやすく戸惑いを見せた。
「いや、だからさっきのは冗談で…」
「俺は冗談じゃないんだけど」
しどろもどろになんか言ってくるけど、鼻先に指を突き付けて一蹴する。
「見せてくれるんじゃないの?橘のイキ顔」
「っ……!!」
そんな『衝撃!!』みたいな顔すんなー!
俺がとんでもない発言したみたいじゃないか!!
「橘さっき、他のヤツとヌキ合いとか気持ち悪いって言ってたけどさ、俺もおんなじだと思うよ。視えるのだって嫌なのに、触るとか絶対無理!」
「……けど、俺のは…」
「そう!橘のだけは、触ってみたいなぁって思ったんだ。でさ、俺のも触って欲しいの」
「………」
答えは返ってこないけど、感触は悪くないと思う。(あ!ち○このじゃなくてな)
目はちょっとウロウロしてるけど、ほんのりと赤いし、困ってはいるけど嫌がってはないみたいだし。
それに、なんて言うか……俺のこれは思春期特有の好奇心なんかじゃなくて……
「俺、こんな風に思うの初めてなんだけどさ、……これって恋なのかな?俺、橘のこと好きみたいなんだけど」
だってだって、ついさっき初めて話した相手なのに、橘の隣はこんなに居心地いい。
橘、優しいし、カッコいいし、デカいから体重全部預けてもダイジョーブな安心感もある。
女の子とはまた違う好い匂いするし。…う~ん、なんて言うんだろ。
抱き着いて首筋クンクンしたらホッとしそうな、でもドキドキしちゃいそうな匂い!
御神木は拝んじゃいたくなるぐらい神々しいから、他のヤツのと全然違ってキモくない。
普段男に抱き着かれると、ウゼー、重い!ってなるけど、橘には包み込まれてるって感じで、もっとー!って。自分からぎゅって行きたくなる。
こんなの初めてだ。
一緒にいて楽しいヤツはいっぱいいるけど、一緒にいられることが嬉しいのは橘だけ。
「………恋…だな」
じっくり時間を置いてから、橘は呟いた。
「ほんと?」
「ああ、恋だろ」
ふわっと笑う。
胸がキュンっと音を立てる。
……ああ…、恋かも……
えっと、じゃあ、じゃあっ!
「俺に触りたい橘も?」
「……恋ですね」
急に敬語で、照れたように髪を掻き上げる。
カッコいい───!
そう思っちゃったら、また胸がきゅーって締め付けられた。
これってやっぱり、恋すぎる!!
「じゃ、俺と付き合う?」
顔を覗き込めば、切れ長の二重の目が細められる。
「……周防からそんな風に言われるとは思わなかった」
「えーっ!嫌なのかよーっ」
「まさか」
頭にぽんと宥めるように、大きな掌が乗せられた。
じゃあどうなんだと首を傾げれば、苦笑気味だった橘は途端、真剣な表情になる。
「……俺と付き合ってくれますか?」
両手で俺の手を包み込んで、まるでプロポーズでもしてるみたいに緊張した顔でそう言うから、
「うん!いいですよ~」
その本気の告白に嬉しくなって、俺は笑いながら大きく頷いた。
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