「ほう、それは興味深い。若返るってことは、身体能力も昔に戻るのかい？」 「うん。歩けなかったやつも若返って走り回ったりしてる。ただ、思い出とかは消されないから妙に大人びてるやつらばかり。仲間が殺された時のシーンとかめちゃくちゃ泣けるんだ」 このラノベはバトルシーンがかなり凝っている。多少大きなお友達のために萌えシーンがあるのは否めないが、ほぼシリアスな話だ。 「なるほど。精神面は大人のままってことか。その作品は少子高齢化にも結び付きそうだね。高齢者を子供に変えてしまうという点とか」 「うわっ、すごいいい観点してるな。少子高齢化はこの小説のテーマの1つなんだ。研究者の中には、『少子高齢化が進んでいるからこそ若返らせてしまえ』って考えをするやつもいれば、『若返った高齢者を戦地に行かせるのは命を軽んじていて、倫理的な問題がある』と苦悩するやつもいる。主人公含めた老人達だけでなく、彼らを操作する研究者の視点も描かれてて面白いんだよな」 日比谷はかなり頭がいいのだろうか。少しストーリーを話しただけですぐにメインテーマに気づいた。この物語は原作は小説だけど、漫画バージョンもあって俺はそれも買っている。漫画だと戦闘シーンがより鮮明に浮かぶ。ちょっと前からアニメも始まったんだよな。 ……って、関係ない話を長々としてしまった。好きな漫画の話になるとついつい熱くなった。 「あっ、ごめん、話逸らしてしまった……」 「いやいや、結構だよ。元はと言えば僕が言い始めたしね」 口元に手をやり微かに笑うと、日比谷は改めて先程の本を俺に向けた。 「それで、この本にしようかと考えているんだけど……」 「結局そのおまじないの本にするのか！？」 ほんの冗談かと思ってたけどマジだったのかよ。からかってるのか？と思ったけど日比谷は唇を一直線にして俺を見つめている。 「すまない、でも僕は君をバカにしてこの本を勧めている訳ではない。僕は最近、おまじないというものに興味を持ち始めてね。一見子供っぽいとかそんなのありえないとか思うかもしれないけど、実際叶った人だってたくさんいる訳だし、単なる子供騙しではないと僕は思っている」 「…………」