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また謎の理屈が始まってしまった。俺もおまじないなんかしたことないし、小学生の女子がやるもんだと思ってた。何より、そんなもんクラスで発表したら間違いなく笑いものだ。けど、そんなまじまじと見られると、こいつがいかに真面目に勧めているかが伝わってきた。
「そして先日君が漫画が好きだと言った。次の日にここに来て試し読みをして、予め候補を決めておいた。小難しい数値や言葉が並ぶおまじないの本もあるけど、この本みたいにイラストやちょっとした漫画が挟まれている方が君も読みやすいと思ったんだ」
瞬きもせず俺に語りかける日比谷。ただの読書発表会だから適当でいいのに、日比谷はわざわざ事前に俺のために読みやすい本を選んでくれた。それがすごく嬉しくて仕方ない。とんでもないことを言ってるはずなのに、困惑しながらもどこかわくわくしている俺がいた。
「僕には面白いものができる自信があるんだ。君と協力すればさらにね」
そう言って日比谷は目を細めていたずらっぽい表情を見せた。初めて見るその姿に俺は完全に見とれてしまった。ああ、恋とはこんな気持ちなのか……。
クラスの前で発表なんて嫌いだ。どうにかして目立たないように、陰口が少なくなるように、差し障りのない印象にも残らない発表をしよう。今までの俺はこう思っていた。でも今は少し違う。どうせ俺のような陰キャは何をやってもどんな本を紹介しても、あいつらはバカにして笑うだろう。ましてや日比谷と2人なら余計に。ならば、好きにしたらいい。顔色伺うよりも、日比谷と2人で楽しく発表したい。かつての俺なら考えられないくらいだ。
いいぜ、やってやろうじゃないか。おまじないの本で思い切り楽しみたい。日比谷と過ごしたい。ちょっと前までの俺が今の自分を見たら頭がイカれてると思いそうだな。恋ってやつは人を変えてしまうらしい。
「いいよ、俺もやってみたい」
気づけば俺はそう答えていた。これからの出来事に少しの不安とたくさんの期待を抱く俺がいた。
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