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「なっ、なんで笑うんだよっ!」 机を叩いて身を乗り出す。なぜ急に笑われたのか理解できない。日比谷は上品に口元を手で押さえて言った。 「君に手伝わせたくないとか、そんなことじゃないよ。先日も申したとおり、僕は関心を持つと1人で突っ走る傾向があってね」 それ、やっぱり俺は邪魔ってことか?自分で言った言葉が恥ずかしくなってくる。しかし、日比谷は軽く咳をして真顔になった。 「それと、君に負担をかけたくないって思ってしまって。僕の発案するものは大体面倒だから」 「別に、そんなこと……」 「でもそうだね。君は『1人で背負って欲しくない』って言ってくれた。君の厚意を無駄にする発言をしてしまった。すまない」 「…………」 「君のようなタイプが珍しいものだから、少々驚いた」 一息つくと、日比谷は顔を傾げて微笑んだ。 「ありがとう、川下。そう言ってくれて嬉しい」 その笑顔はさっきまでの爆笑と違い、少し切なさを帯びているようだった。俺の心を見透かしているような、そんな表情。なんっ……だよもう!突然素直に礼なんか言いやがって……!しかもしれっと川下って言ったし……。そんなの、反則に決まってるだろ。心臓がバクバクして止まらない。でもこの緊張がなぜか幸せで、このまま2人の時間が続けばいいのにと願った。 そんなこんなで、俺達は役割分担を決めることになった。 「俺がアンケートを取ろうかと思ったけど、そもそもほとんどSNSとかやってないんだよな……」 「心配無用。僕のアカウントで募集するよ」 「えっ、アカウント持ってるんだ」 それは意外だ。日比谷はあまりSNSに興味ない印象がある。 「うん。まあ、情報収集のための趣味アカウントだから、自分で発信したことはないんだけどね。今回が初だよ」 と言って、日比谷はスマホを見せてきた。 「うわっ、フォローもフォロワーも多いな」 「数だけはね。興味があるアカウントをフォローしていたらこうなった。一切やり取りはしてないが。変な出会い系みたいなのにフォローされたりもする」 「それは……」 日比谷が出会い厨にフォローされるなんて、想像しただけで面白い。相手が男で小難しい理屈ばっかり言うやつって知ったら、この出会い系のやつらはどんな反応をするんだろう。

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