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「子供の頃よく聞いただろう?高校生になった今ならどう答える?」
真顔でまじまじと見つめてくる。変なことを聞かれても、そんな眼差しを向けられると許してしまう。
ガキの頃こんな質問されたらどう答えてたかな。たぶん「美味しいものを食べまくる」とか「好きなだけおもちゃを買ってもらう」って言ってただろうな。今は……そうは思わない。
「そうだな……特別なことは何もしないって答えたらつまらないよな?」
「ほう、何もしない、か」
「うん。普通に起きていつもどおり食事をして、好きな漫画読んだりアニメ見たり。そして……」
少し間を置いてから、俺は再び話し始めた。
「今みたいに、こうして他愛もない会話ができたらいいかな。ゆっくり落ち着いて世界が終わるのを待つかな、俺なら」
すると、日比谷は少し驚いたような表情を見せた。つい本音が出てしまった。俺、まずいこと言ったかな……。やっぱり「日比谷と他愛もない会話がしたい」って気持ち悪かったかな……。ぐるぐると考えていると、日比谷がさらに質問をした。
「なるほどね。特別なことをしようとは思わないのかい?」
「昔はそう思ってたけど、特別なことをすると1日が過ぎるのが早く感じそうで……」
例えば旅行に行って高級ホテルに泊まるとかだと、あっという間に時間が過ぎそうな気がする。おまけに変に気を使いそうで、それで世界が終わるってのはもったいないと感じてしまう。
「確かに。それにそういうのって良くも悪くもストレスが発生するからね。それなら静かにゆっくりしたいというのが君の答えか」
面白くもなんともない回答だが、これが今の俺だ。日比谷と過ごすこの瞬間がとても幸せだから、特別なものなんて必要ないんだ。
「あの、日比谷はどう答えるんだ?」
「実は君と同じ回答だ。いつもどおりでいいかな。哲学書を読みふけったり、人類について深く考えながら終わりを待ちたいね。瞑想をして最後を迎えられるなんて、最高の終わり方じゃないか」
「そ、そうか……?」
どんな終わり方だよ。てか毎日そんなことして過ごしてるのかよ。が、日比谷にはまだ続きがあった。
「そして、こんなふうに君と話すのも悪くないかな」
「え……」
頬杖をついて俺を見る日比谷。余裕そうな表情で。そ、それって、俺と話しててもいいってこと……?顔が一気に熱っぽくなる。どうやっても口元が緩んでしまう。
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