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その日の帰りのこと。俺はトイレに行って手を洗っていた。人がいるとトイレに行きづらい。男子トイレも個室にして欲しいと思うことがある。しかも混雑してるし。放課後のみんなが帰った時間はほとんど人がいないから使いやすい。ハンカチを取ろうとポケットに手を突っ込んだ瞬間、まさかの人物がトイレに入ってきた。 Tシャツに短パン姿の男。高身長でいかにもスポーツマンな見た目。出くわしたのは斎藤だった。衝撃のあまり俺は手に取ったハンカチと“あれ”を落としてしまった。慌てて拾おうとしたが、先に斎藤がかがんでそれらを拾った。俺は愕然とした。ハンカチはまだいい。問題は“あれ”だ。 俺が落としたもの。そして斎藤が拾ってくれたもの。それはハンカチと「あのおまじないの紙」だ。小さな紙を折りたたまずにポケットに入れていたことを、俺は激しく後悔した。斎藤は完全に、ハートマークで囲まれた俺と日比谷の名前を見てしまったんだ。このおまじないって人に見られたらだめだっけ?いやそんなことは書いてなかったな。……って、今はそんな場合じゃなくて……。 終わった。俺の人生はこれで終わった……。もう明日から学校に行けない……。 「いやっ、あ、あのっ、それは…………」 なんて言えばいいのか、どうすればいいのかわからず途方に暮れていると、斎藤が何事もないかのように笑った。 「やっぱりそうだったんだな」 「えっ……」 思わぬ言葉に唖然とした。どういうことだ……?しかし斎藤は爽やかな笑みを浮かべている。 「最近、2人でよく話してるの見てさ。すごく楽しそうだったから、何となく」 もしかしてバレてたんだろうか?俺、表情に出やすいからな……。これがクラス中に拡散されたらどうしよう。 「おっ、お願い!何でもするから、誰にも言わないで……ください……!」 俺は必死に頭を下げた。みっともないけどこんなことしかできなかった。斎藤は交友関係も広いし、明日には噂が広まるかもしれない。日比谷にも嫌われてしまうんじゃないか……。そう思うと不安で不安で仕方なかった。 しかし、そんな気持ちをよそに斎藤は明るく笑い飛ばした。 「何言ってるんだよ。みんなに言うわけないだろ!俺、そんな口軽そうに見える?」

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