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そんなやり取りが続いた。一体どこへ行く気だろう。スポーツをしに行こうとか言うんじゃないか?僕はともかく川下は運動嫌いだぞ。恐らくそういう場所ではないと思うが……。まあ場所については後で協議するか。
この期間で何があったのだろう。少なくとも斎藤と川下はそこまで話す仲ではなかったはず。最近になって喋るようになった、というのは本当だと思う。
斎藤のことだから、僕に気を使ってるに違いない。“あの時のこと”をきっと今でも気にしてるんだろう。お人好しの彼だから。あの時、彼が僕に色んな話をしてくれた。僕の話を聞いてくれた。それは、高校生になった今でもだ。
ふいに川下のことを思い浮かべる。大人しくて控えめで、真面目な男。でも意外と感情豊かで反応が面白い。いつも僕のために行動してくれる心優しいやつ。そして、僕のことを真っ直ぐに見つめてくれる……。
『いつも1人でやらされるのが嫌だった。だから日比谷には1人で背負って欲しくなくて……』
『やだ。1人で背負って欲しくないって言っただろ?それとも俺に手伝わせるのは嫌?』
『あのさ……これから色々やり取りすると思うし、その……連絡先、教えてもらっても……』
『今みたいに、こうして他愛もない会話ができたらいいかな。ゆっくり落ち着いて世界が終わるのを待つかな、俺なら』
『日比谷』
『色々ありがとうな』
まるで走馬灯のように流れていく。彼の言葉が、行動が、笑顔が……。
なぜ僕を求める?僕に何があるっていうんだ?こんな変人の僕に。
おかしいな、心なんていらないと思っていたのに。主観的になるから傷つく、客観的に物事を見たら傷つかないし、あらゆる物事が面白く感じる……そう信じていたのに。
目眩がする。一気に本を読んだくらいじゃならない。空っぽどころかなくした心という名のコップを、だれかが探し当てて水を注いでいる。
最近の僕は変だ。いや、いつも変なのだろうが、普通になろうとしている自分がおかしいんだ。こんな感情必要ないと、あの日捨てたはずのもの。
僕は今、たまらなく心が欲しい。川下が欲しい。
そう願ってしまった。
***一葉 side 終***
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