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と思いきや、緊張というものは急に襲いかかるのだった。
「はい、次かわしー」
「えっ、俺!?」
「そうだよ、せっかくなんだから歌わなきゃ!」
マジかよ……。カラオケに行くって知ってたから、一応用意はしたけどさ……。普段歌なんか歌わなくて、たまに家族がいない時に1人で歌ってるくらいだしな……。しかも斎藤や日比谷がいる前で歌うと、下手だって笑われそうで……。
「あの、俺歌全然上手くないけど……」
「そんなんどうでもいいって!ほら早く!」
斎藤はマイクを差し出し、曲選びを急かしてきた。カラオケに行くって決まった時も、「かわしーの意外な面を見せて、ひびやんを惚れさせようぜ!」とわけのわからないことを言われた。流石に惚れないと思うぞ……。
しぶしぶマイクを取り、スイッチを入れた。手でマイクの先を軽く叩く。人前で歌うなんか緊張するわ……。
「期待、しないで」
「期待しまくってるわ。な、ひびやん?」
「うん、川下が歌うの、実は楽しみにしてた」
今日は比較的静かだった日比谷が、俺を見て微笑んだ。…………っ、日比谷のバカ。そんなこと言われたら余計好きになるだろ。斎藤が密かに俺の脇腹をつついた。
とりあえず1曲入れた。まだ歌いやすいやつを選んだ。馴染みのあるイントロが流れる。やばい、めちゃくちゃ汗かいてきた。ここ冷房ガンガンに効いてるのにな。しかもこの曲アニメ映像付きかよ。変なシーンとか出てこないよな……。
小さく息を吸い、声を発した。出だしが若干遅れたが、なんとか波に乗り始めた。日比谷の視線を感じて、くすぐったい気持ちになった。
この曲は俺の大好きなアニソン。アニメは割と最近放送が始まったばかりなのに、もうカラオケに搭載されているくらいの神アニソンだ。フルバージョンは発売日当日にCD(初回限定盤)を買いに行ったな。曲調はアップテンポだが歌詞が泣ける。死を覚悟して敵に立ち向かう姿がアニメと重なって、かっこいいけど儚い戦士達を歌った曲だ。
映像もあるおかげか、歌ううちに少しずつ慣れてきた。俺は映像を楽しみながら歌い続けた。
長いような短いような5分間が終了し、マイクの電源を切った。横の斎藤がでかい拍手をしてきた。
「かわしーが歌ってるのすげぇ意外だ!」
「だって、斎藤が歌えって……」
「そうだけど、結構胸熱な曲チョイスしたのも驚きだ。これってなんてアニメ?」
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