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「“future”っていうやつ」 「へぇー、そうなんだ。どんなアニメか気になるな」 「これは知る人ぞ知る戦闘アニメだよ。原作は小説で、後に漫画化・アニメ化したんだ。今アニメやってるよ」 斎藤におすすめをしていると、反対隣の日比谷も参加してきた。 「それ、この前図書館で話してたやつだよね。高齢者が若返って戦争に借り出されるっていう」 「よく覚えててくれたな!これ、1回カラオケで歌ってみたいと思ってたんだ」 「確かにPVと歌がマッチしていたね。あれから僕は小説版を読んでみたんだけど、なかなかシリアスな内容だった」 「えっ、マジで読んでくれたのか!あれは残酷なシーンが多いからなぁ」 「少子高齢化問題を掲げていると聞いて、個人的興味を抱いてね。作中で年金問題も描かれていたのはかなりリアルな話だと感じたよ。とはいえ、まだ10巻までしか読めてないんだけど」 「いや10巻も読んだって早くね!?でも読んでくれたのすごい嬉しい!」 あの本は現在30巻まで発売している。短期間で3分の1も読めた日比谷に驚いた。それに俺の話を覚えていて、本を購入していることに胸を締め付けられた。例え個人的な興味だとしても、俺の言葉たった1つでも記憶してくれているのが嬉しかった。 が、俺の勢いについていけない斎藤が服の袖を引っ張ってきた。 「かわしー、俺全然わかんないんだけど。2人だけ熱くなっててずるい」 「あっ、ごめん、つい語ってしまって……」 好きなことだと暴走してしまう。しかも相手が日比谷だから興奮してしまった。俺は軽く咳をしていつもの大人しい自分に戻った。 それからしばらくは、8割斎藤、2割俺が曲を入れていた。人前で歌ったことなんてなかったけど、案外面白いもんなんだな。きっと、このメンバーが居心地がいいからかな。斎藤なんて今日初めて出かけるのに。すごく明るくて話しやすいやつで、いつの間にか打ち解けていた。 だいぶ盛り上がった頃、斎藤が俺を挟んだ横のやつに声をかけた。 「ひびやん、そろそろ歌ってよ」 日比谷はまだ1曲も歌ってない。何度か勧めたが「まだ2人の歌を聞いていたい」とか「コンディションが整っていない」と言って渋っている。今日はやけに静かで、黙って俺達を眺めていた。メロンソーダ啜りながら。 「なあ、かわしー。ひびやんの歌聞きたいよな?」

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