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日比谷はそう笑った。本当にこいつはなんでもできるんだな。たくさんの才能を持ってる。俺は自分のことのように嬉しかった。
「日比谷が歌うイメージなかったから、すごいびっくりした。これも習ってたのか?」
「うん。歌が1番まともに習ってたかな。もう辞めたからブランクあるんだけど」
何から何まで天才か。ひょっとしたらデビューできるんじゃないかってくらい、透き通った歌声だった。
もっとその歌を聞きたい。そう思っていると、日比谷が急に立ち上がった。
「失礼、ちょっとお手洗いに……」
日比谷はハンカチを顔に当てながら、早足で部屋を出ていった。あれ、俺失礼なことでも言ったっけな……。さっきの発言を振り返っていると、斎藤が堪え切れずに吹き出した。
「ははっ!ひびやん、あれはかなり緊張してたな〜!」
「えっ、そうなのか?」
「絶対そう。平然を装っていながら、終わった後部屋を出るくらいだもん」
あの日比谷が緊張だなんて。無理に歌わせてしまったかな……。未だに信じられない。
「もしかして、人前で歌うの嫌だったとかかな……?」
「いや、違うな。嫌だったらまず誘った時に断るはず。『僕はそのようなことに興味はないのでね』的な感じで」
「確かに……」
テストでも気に入らない採点をされたら、クレームを言いに行くくらいの日比谷だ。斎藤の言うとおり、日比谷は乗り気でないものにははっきり断りそうである。
「むしろ自信あったんじゃない?あの曲もかなり歌い慣れてて十八番っぽいし」
「うん、堂々としてたよな」
「けど、いざかわしーの前で歌うとめちゃくちゃ緊張したんだと思うよ。かわしーにかっこいいとこ見せようとしたんだろうなー」
「そ、それはないだろ……っ」
「いやぁ、ありありだな」
斎藤はニヤリとして俺に視線を向けた。日比谷にそんな感情あるのか?もう、俺が自信ないよ……。
狭い空間に斎藤と2人。陽キャと陰キャがこんなところにいるとは。少し前までの俺なら考えてもなかったはず。でも、不思議と気まずい空気にならない。それは斎藤の性格のおかげなのかもしれない。
俺は気になっていたことを問いかけた。
「斎藤は、日比谷が歌上手いって知ってたのか?」
「いや。今日初めて知った。てか、ひびやんと遊んだのもこれが初めてだし」
「えっ、そ、そうなんだ……」
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