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幸せなことだよ(文哉 side)

ひびやんとかわしーと3人で出かけた日から数日が経った。あれから2人はたまに話している様子を見かける。たぶんひびやんがまた変なこと言って、それをかわしーが受け止めているんだろうな。そう思うと微笑ましい気持ちになる。 ある時から2人がよく話すようになった。中学の頃からひびやんはほとんど1人で過ごしていた。かわしーのことは高3になって初めて知ったけど、大人しくてあまり人と話すタイプではなかった。だから2人が楽しそうに話すようになったのが嬉しかった。 それに、あの読書発表会以来、2人は時々他のクラスメイトからも声をかけられるようになった。おまじないの発表、なかなか斬新だったからな。周りのウケもよかった。 かわしーがトイレであれを落とした時に、何かが俺の中で合致した。かわしーは普段は物静かで無表情だけど、実は笑った顔は幼くて可愛い。なんて言ったら怒るだろうけどな。ひびやんと話す時のかわしーは、いつもそんな笑顔だった。ああ、そういうことか、って。 かなり純粋なかわしーが健気で可愛いと思った。素直に恋を応援したい。ましてや相手はひびやん。彼も学校一の変人と言われているけど、本当は人一倍ナイーブだから……。中学時代を知る俺としては、ひびやんには幸せになって欲しいと願っていた。だから2人がくっついたらいいのにな、なんて思う。 そんなある日、俺の元にメッセージが届いた。部活の誰かからだと思っていたら、予想外の人物だった。 翌日の放課後、チャイムと同時に俺は席を立って帰り支度を始めた。周りもぞろぞろと下校をしていく。俺の元にクラスメイト数人が集まってきた。 「文哉、お疲れ」 「一緒に帰ろうぜ」 嬉しい言葉。けど、今日は先約がある。俺は泣く泣く断った。 「すまん!今日はちょっと用事があるんだ」「そっか。じゃあまた明日な」 「あ、さては彼女と帰るんだろ?羨ましいなー、俺も彼女欲しいぜ」 そんな彼らを見て俺は思わずくすっと笑った。 「残念ながら、今日は違うんだな」 それから、俺は言われたとおり空き教室にやって来た。見慣れた後ろ姿に声をかける。 「ひびやん、お疲れ」 俺が呼ぶと、彼は振り返った。いつもどおり眼鏡をかけた真顔の男子がそこにいた。 「すまないね、突然呼び出して」 「全然いいよ。今日は部活も休みだしな」

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