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トラウマ

翌日、少し重い体を起こしてベッドから下りた。昨日斎藤と電話をしてから、だいぶ気持ちが軽くなった。今日はちゃんと、日比谷に声をかけよう。そう決意し、俺は部屋を出た。 登校中、通学路で運良く見慣れた背中が見えた。細身で姿勢のいいやつはあいつしかいない。見間違えるはずがない。彼がいるだけで通学路すら美しく見える。ぐっと力を込め、俺は早歩きで近づいた。 「日比谷!」 声を張る。すると、彼はこちらを振り向いた。ストレートの髪に黒縁眼鏡。俺の大好きな日比谷だ。 「おはようっ!」 さりげなく、なんて器用なことはできないから、まずは挨拶から始めた。警戒心を持たせないよう、また笑ってくれるように……そう想いを込めて。 「おはよう」 日比谷は優しく微笑んだ。その笑顔は裏のない、いつもの日比谷だった。ほっとした。大好きな大好きな、日比谷の笑顔。体の力が一気に抜けそうになった。 俺はいつだって日比谷の味方だから。何があっても守るよ。日比谷がこれ以上傷つかないように、俺は彼を笑顔にさせると決めた。こうしてまた日常に戻れると信じていた。 昼休みのこと。毎度のごとく教室は動物園レベルにうるさい。俺はうっかり次の授業の宿題をやり忘れていたので、慌ててノートを書いていた。少し離れた席で、日比谷は読書をしている。また変な本読んでるのかな。今朝は少し話せた。いつもの日比谷で安心した。早く宿題終らせて話したいな。そんなことを考えながらシャーペンを動かしていた。 クラスメイト数人が俺の席を横切っていく。ふと顔を上げると、彼らは日比谷の席へと向かってる。珍しいな、日比谷は基本1人でいるから。何か用事でもあるのかな。しかし、次に俺の目に入ったものは衝撃的なものであった。 「日比谷くんっ!」 1人の男子生徒は明るめの声で日比谷の肩を触ったのだ。別にこれは普通ならなんともない光景だ。ただ……あの日の出来事が重なる。 ガタン!! 日比谷が勢いよく立ち上がった。椅子が大きな音を立てて倒れた。 「僕に触るな!!」 悲痛な声が教室に響き渡る。あの日のように恐怖に満ちた目。聞いたこともない日比谷の叫び声。彼の目は完全に色を失っていた。見る者全てを突き刺すような視線。その様子に俺の胸は痛めつけられた。見たくない。そんな日比谷なんて見たくない……!

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