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日比谷に促され、俺は窓際にある椅子に座った。これから何が起こるか想像がつかない。日比谷は座らずに窓のそばで立っている。 「まず、先日のこと。ありがとう」 先日のこと。きっとあの事件のことだろう。クラスメイトに肩を触られ拒絶したこと。やはり気にしてたんだな……。 「いや、全然……」 上手い返事ができず、素っ気ない反応をしてしまった。日比谷はまた話を続けた。 「そして、その前には君にも失礼な態度を取ってしまった。本当に申し訳ない」 そう言うと、日比谷はまさかの、頭を深々と下げたのだ。初めてのことに戸惑う。あの日比谷がこんなこと……。 「いっ、いいよ!気にしてないから、頭上げて!」 衝撃的すぎて一瞬頭が真っ白になった。日比谷がどんどん、変人から普通の男子高校生になっていく。でも嬉しかった。そんな一面も余計に愛しく感じた。日比谷はゆっくりと顔を上げて言った。 「僕は、人に触られることに拒否反応を示してしまうんだ」 なんとなく気づいていた。斎藤との電話でわかった。俺だからではなく、誰から触れられてもだめなんだろう、と。理由が知りたかったけど、傷に触れたくないから気づかないふりをしていた。 「でも君のことが嫌いとか、そういうことじゃないんだ」 わかってるよ、日比谷。けど言葉で言ってもらえて安心した。日比谷は顔を窓の外に向けると、物語の1ページをめくった。 「僕の昔話を、聞いてもらえないかな」

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