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その後のことはあまり覚えていない。恐らく騒ぎを聞いた先生が駆けつけて保健室につれて行ってくれたんだと思うけど、もう僕は全てを失っていた。 その日は早退することになった。家に帰ると母親が案の定寝ていた。ドアの音で起きたのか、ゆっくりと体を起こしてきた。 「一葉?どうして帰ってきたの?」 時間は昼過ぎ。僕がこんな時間に帰るだなんて予想外だったのだろう。 「ちょっと体調が悪くて……」 そう言うと、母ははぁ、とため息をついた。 「体調管理はちゃんとしなさいって言ったでしょ?受験生なんだから、一日一日が大事なの。風邪ひとつでも許されないのよ」 母は僕の顔なんて見ていない。僕の体調なんて心配していない。勉強のことしか考えていないんだ。 「今日は塾とピアノがあるんでしょ?それまでには体調戻しなさいよ」 吐き捨てるようにそう言われた。落胆した。学校だけじゃなくて、家にも僕の居場所はない。頭がガンガン殴られるように痛む。 「……行かない」 短く返事をした。部屋に行こうとすると、母が立ち上がった。 「何言ってるの?行かなきゃだめでしょ?あなたの人生がかかってるのよ!?」 だんだんと母が近づいてくる。僕は初めて、母親を鬱陶しいと思った。今まで反抗したことなんてなかったのに。 僕の人生?そんなものあるわけないだろ。僕は誰にも望まれずに生まれて、毎日暗闇をさまよっているのに……! 僕の前で止まると、母は僕の肩を力いっぱい掴んだ。 「一葉!全部、あなたのためなのよ!あなたへの試練なのよ!」 肩から全身に不快なものが伝わる。その手は温かくもなく、僕を痛めつけるものだった。 『誰か!日比谷の菌をつけてやるっ!』 今日の出来事が蘇ってくる。思い出したくもないあの言葉と手の感触が……。一気に寒気が押し寄せた。 僕の中で、何かが壊れた。糸が切れるように。もう何もかも全てぐちゃぐちゃになってしまえ。そう思ってしまった。 僕は母親の手を掴み、思い切り引き剥がした。 「かず、は…………?」 初めての態度に、母は戸惑っていた。まるで今の状況を理解できていないような、そんな顔で。 「僕のため?僕への試練?ふざけるな!お母さんが勝手に決めたことだろっ!!」 母は怯えていた。僕の大声に。僕の全てが狂い出し、自分でも止められなかった。

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