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事件があってしばらくは学校を休んでいた。母親はこれ以上何も言わなかったし聞いてこなかった。会話は普通にするし、責められることもない。もしかしたら学校の先生がいじめの話をしたのかもしれない。だとすると、誰がそれを言ったのだろう?そもそも先生達は気づいているのか?まあどちらでもいいか。
習い事は全て辞めた。特にやりたいことなどないからだ。母は文句を言うこともなく、全ての手続きを済ませた。
その後、保健室の先生から「来れる日は保健室でいいから来ないか」と言われ、ずっと家にいるのも退屈なので行くことにした。クラスメイトと会うのが怖いと、1秒たりとも感じないかと言われたらそれは嘘になるけど、僕にはあいにく心がない。どうでもいいと思っていた。それに保健室だからほとんどの人と会わないだろうし。
僕は保健室登校を始めた。たまに先生が来て授業を受ける。勉強には興味がないが、多少はこういう学習もしなければいけないと思い、のんびりと課題をやっていた。
心がない生活というものは、割と穏やかなんだな。心にゆとりがある……というか、心がないから。体の中はスカスカだ。ただ、それを埋めるものなどありもしない。この先のことなんて考えてもなかった。
ある日、保健室で宿題をやっていると、1人の男子生徒が入ってきた。入るなり大きな声で俺に言った。
「おはよっ!」
身長が高くて顔立ちも整っている。何より笑顔が眩しい。
「……おはよう」
ひとまず挨拶を返した。流石に無視するのは悪いと思った。
彼の名前は斎藤文哉。僕のクラスメイトだ。ほとんど喋ったことはないけど、明るくて社交的な人物だということは知っている。僕のいじめグループには属していない。
「俺さ、この前から保健委員長になることになったんだ。よくここに来ると思うから、その時は仲良くしてな!」
満面の笑みでそう話す斎藤。突然のことにやや混乱している。話す仲でもなかったのに、急に声をかけられた。なんのつもりだろう?僕のあの事件のことで気を使っているのだろうか。
なんて言葉を返せばいいかわからず黙っていると、斎藤はこちらのことはお構いなしで近づいてきた。
「うわー、数学の課題じゃん。俺数学1番苦手なんだよなー」
横から僕の宿題のノートを見ながら呟く。無駄に距離が近い。嫌な予感がした。
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