107 / 122
*
「死んでは困るよ。これから飽きるくらい僕の話を聞いて、ずっと傍にいてもらわないといけないのだから」
2人は笑い合った。目の前にいる日比谷一葉は、本当の純粋な少年なんだ。
余韻に浸っていると、日比谷がズボンのポケットから何かを取り出した。
「今だから言えるんだけどね……」
少し恥ずかしそうにその紙を見せた。それを見て俺は息が止まるかと思った。
そこには……なんと、ハートマークで囲まれた……俺と日比谷の名前が書いてあったのだ。
「こ、これは…………」
「気持ち悪いだろう?僕はここまでして、君を求めていたんだよ」
気持ち悪いわけ、ないじゃないか……。だって……俺だって……。
急いで自分のポケットを探る。くしゃくしゃになって出てきたあの“おまじない”。2人で発表したもの。
「俺も、同じことしてた……」
日比谷の達筆な字と、俺の汚い字。それでも中身は同じおまじない。男同士、らしくないことをしていた。
「これは、驚いたなぁ……」
「ホントにな。でも、2人とも効果があったってことだな」
「そうだね。頑張りのおかげかな」
照れくさくって2人で笑った。まさか同じおまじないをかけていたなんて、想像もしていなかった。日比谷がそこまでして俺を想ってくれていたこと、それがどうしようもなく幸せだった。
日比谷は自分の手を差し出し、俺に問いかけた。
「志津、僕の指に触れて?」
心臓がものすごいスピードで鼓動を刻む。白くて細長い指。陶器のようで、でも温かそうな……。
「ちょっ、ちょっと待て……!」
「だめ?」
「いやだめとかじゃなくて!一度で二度びっくりなんだけど!?」
初めて俺の下の名前で呼ばれた。それだけでドキドキするのに、まさかの指に触れて欲しいだなんて……!しかも「だめ?」って首を傾げて可愛くおねだりするな!可愛すぎるんだよっ、全く……。
「でも、体に触れられるの嫌だろ?気持ち悪いだろ?」
「ううん。志津になら、いい……」
お前なぁ!両想いになった途端可愛くなりすぎなんだよ……。頬を赤く染めて色っぽい表情をする日比谷。可愛いくて上品だった。
恐る恐る俺も手を伸ばす。本当は頭を撫でたり抱きしめたり、手を握ったりしたい。けど、日比谷の過去を思うとまだまだ先の話だ。
ともだちにシェアしよう!