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そっと、手を近づける。以前肩に触れようとして避けられたこの手。日比谷を怖がらせないように、ゆっくりと前に出す。
そして、中指と中指が優しく触れ合う。ほとんど当たっていないくらいだ。でも間違いなく俺達は初めて、指が触れ合った。たった指1本だけでも柔らかな感触と温もりが伝わった。
「大丈夫か?嫌だったらすぐ言って?」
「大丈夫だよ」
日比谷は優しい眼差しで俺を見ている。もうあの時みたいに体を避けられなかった。喜びが全身に込み上げてくる。
「気持ち悪くないか?怖かったりしない?」
「平気。志津は僕を汚いもの扱いしないってわかってるから」
「当たり前だろ。むしろ綺麗だよ。すごく」
「嬉しいな。志津の指、あったかい」
「ちょっ、おまっ、キャラ変わりすぎだろ……っ」
あの変人が、素直になっている。何度も名前を呼ばれるたび、声を聞くたび日比谷への好きが溢れていく。
「志津の手、意外と男らしいね」
「意外とってなんだよ」
「いや、童顔なのに手はすらっと血管が通ってて大人っぽいなって……」
「……っ、お前は綺麗すぎるんだよ。指細いし爪の形もいいし」
「そうかな、嬉しい」
満足そうに笑う日比谷。誰が童顔だ、とか言いたかったけど、あまりにも無邪気な日比谷を見ていると何だか穏やかな気持ちになれた。
しばらくして、そっと指と指を離した。ほんの少しだけでも、触れ合えたことが心地よかった。指に日比谷の熱が残っている。
俺には、もうひとつ伝えたいことがある。
「日比谷……いや、一葉」
慣れない名前を呼ぶと、一葉はふわっと微笑んだ。本当にこいつは、まだ見ぬ顔をたくさん秘めている。
「もしよければ……俺と付き合って欲しい」
ベタな表現だけど、言っておきたかった。その言葉に一葉はまた甘い笑みを見せた。
「もちろんだよ」
晴れて恋人同士になれた俺と一葉。夏の暑さに負けないくらい、熱い仲になれたらいいな。
「それとさ」
俺はもう一度、彼に問いかける。
「もう1回。指1本だけ、触れさせて」
俺のわがまま。一葉に少しでも長く触れていたい。触れられなくてもいいって言ったのに。やっぱり我慢できないみたいだ。
一葉が大きく頷き、俺達は再び指を触れ合わせた。じんわりと温かさが伝わる。この気持ちを、この温もりを一生忘れることなく生きていこう。絶対に一葉を隣で守ってみせる。そう誓った。
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