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After Story(一葉 side)

夏休みは退屈なものだと思っていた。学校に行くのは億劫だから、家でゆっくりする方が確かにいい。しかし、流石の僕も24時間本を読むことはできないし、日中は家に1人だから話す相手もいない。充実しているとは言えない日々だった。 でも、今年の夏は違う。僕には志津という恋人がいる。それだけで嬉しい。おまけに補習の帰りに、志津はよく家に招待してくれた。彼の大好きな“future”という本を貸してくれたり、僕の話を聞いてくれたり。彼のお母さんもよくお菓子や飲み物を持ってきてくれる。今まで経験したことのない毎日。僕は泣きそうなくらい幸せだ。 僕は思い切って、今度は僕の家に遊びに来て欲しいと言ってみた。いつもは学校に近い志津の家に行く。僕の家は遠いから学校帰りには向いてないけど、休みの日ならいいかなって思って……。志津は快諾してくれた。 そして今日。大好きな志津が遊びに来る。部屋を片付け、掃除を済ませておいた。なんだか緊張する。机の上を整理していると、僕を呼ぶ声が聞こえた。 「一葉、そろそろ仕事行ってくるねー」 玄関から母親の声がする。僕は早足で玄関まで向かった。母は僕の事件があってから、夜の仕事を辞めた。飲酒も止め、心療内科できちんと治療を受けた後、朝から夕方までの仕事を始めた。今は精神的にも落ち着き、夜には2人で夕食をとったり会話をしたりしている。 「お母さん、言い忘れてたんだけど……今日、友達が来る」 そう言うと、母は目を丸くさせて驚いた。 「えぇ!?そうなの!?やだもう、早く言ってよ〜。部屋とか散らかってるし……」 「いや、ある程度は僕が片付けておいたから……」 「私の部屋は汚いわよ。下着干しっぱなしだし」 「……お母さんの部屋には入れないよ」 流石にそこまではさせないし、志津は勝手に部屋を覗くような人じゃない。 「友達って、この前図書館に行った人?」 母からの問いに、僕はドキッとした。確かに志津と初めて出かけたのは市の図書館だ。そのことを覚えてくれていたんだ。 「うん」 短く返事をする。本当は友達よりもっと上の存在……恋人、なんだけどね。それは黙っておいた。 「そう。いい友達を持ったね」 母は安心したかのように微笑んだ。今まで僕が友達を連れてくるなんてなかった。そもそも友達がいなかった。だから、母もほっとしているのかもしれない。

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