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「こっちこそ休みの日に家に入れてくれるんだし、それに、一葉を喜ばせたいし……」 やや視線を逸らす志津。一途で照れ屋な彼が余計に愛しく感じた。 「あっ、ショートケーキ食べれる?ちゃんと好み聞いてから買えばよかったんだけど……」 「食べれるよ。君からもらったものならなんでも」 「……ったく、照れさせんなよ」 たぶん周りがこの会話を聞けば、「リア充爆ぜろ」と言うだろう。今まで人との関わりがほとんどなかった分、僕も志津もお互いにべったりしている。 「じゃあ、ちょっとお茶を用意してくるよ」 「悪いな、ありがとう」 「あいにく家に紅茶がなくてね。ケーキに合わないとは思うけど……」 「いいよなんでも。一葉が用意してくれるものなら」 お返しと言わんばかりの顔をされた。これは想像以上の破壊力だ。照れくささが一気に込み上げる。 「なら、トマトジュースやコーンスープやお風呂場の水でも?」 「……いや、流石に風呂の水は遠慮するわ……」 志津は本当にからかいがいがある。僕はもらったケーキを机に置き、キッチンへと向かった。 それから僕達は、ケーキを食べながら雑談をした。何気ない会話も、志津といれば特別な時間。かけがえのないものだ。 「甘い生クリームと柔らかいスポンジが混ざり合い、そこに甘酸っぱい苺が口の中で絡み合う……といったところか。全ての味が露わになり、体温で溶けていく」 ケーキの味を解説してみる。美味しい、一言で言えばそうなのだけど、やはり日本語は奥深くて多種多様、どうせなら多くの言葉で表現してみたい。 「あの、一葉……」 「ん?」 「その言い方……エロい」 横にいる志津を見てみると、若干頬を赤く染めている。 「いやっ!いつもみたいに理屈語ってんなぁーとも思うけど、なんか、今のは、その、官能小説みたいにも聞こえてきて……」 みるみるうちに耳まで真っ赤になる志津。そんな姿を見ていると、胸が熱くなって自然と笑みがこぼれてくる。 「志津」 僕は手を真横にいる志津に近づけた。 「触れて。僕の指、触って欲しい」 そう言うと、志津はやや目を細めて睨んできた。 「こ、このタイミングで……。ホントに一葉はずるい」 志津はそっと、彼の小指を僕の小指に絡ませた。指1本だけでも十分に伝わる熱。やがて体中が熱を帯びる。

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