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志津は僕に気を使って、自分から触れたことは一度もない。僕のタイミングを伺って、僕がいいと言ったら触れてくれる。しかも、指1本だけ。これがいつものやり方だ。 手を繋いだことすらまだない。毎回僕のわがままを聞いてもらって、申し訳なく感じている。でも、彼は僕を拒絶しない。汚いって言わない。僕に触れたいと言ってくれる……。それを重ねるごとに、僕の中で芽生えてくるものがあった。 「志津、もっと……もっと触って?」 「えっ、お前、それ、大丈夫なのか……?」 「大丈夫、いいよ……」 僕の言葉に、志津はふぅと息を吐いた後、指をさらに重ねた。彼の小指が僕の親指に、それから彼の薬指が僕の人差し指に……。指だけでなく、手のひらが重ねられる。想像を遥かに超える体温と力が僕の全てを…………。 「あっ……!」 「わっ!悪いっ!」 僕は声と同時に体が動いた。そしてそれに伴って志津は慌てて手を離した。尋常じゃないくらいに心臓が鳴っている。 ふふ、これは想像以上、だね。今までにない鼓動を感じながらも、僕の中の小悪魔はいたずらっぽく笑っている。君を甘い罠にはめたい、ってね。 かけている眼鏡を外し、僕は体ごと志津に近づいた。

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