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やがて一葉は俺に背中を向けた。体が震えている。こいつ、もしかして今まで俺に我慢させていたことを申し訳なく思って、無理してキスした……?
「そっ、そんな、無理しなくて……」
「違う」
一葉の声に遮られる。声まで震わせている。うろたえていると、一葉が言葉を発した。
「……今まで、僕のせいで志津に我慢させてた。僕の許可がないと触れないなんて、酷いことをしていた」
「そ、それは仕方ないよ、俺、気にしてないし……」
「でも志津が僕を求めるたび、大切に触れてくれるたび、僕の中で安心感が生まれて……。あんなに人に触れられるのが怖かったのが、嘘みたいで……」
一葉はゆっくりとこちらを振り返った。
「志津に触れたい。触れられたい。もっと志津と色んなことがしたい。そう思うようになって……キス、しちゃった」
その時の表情は、気品がありながらもまるで欲情しているかのようなものだった。心臓が止まるかと思った。長いまつ毛に濡れた唇。隙間からもれる吐息。色気がありすぎて、襲いかかりそうになるほどだった。眼鏡を外した姿がこれまた美しい。
「なんだよそれ……、可愛いしかっこいいし、上品だし……おまけにエロい顔しやがって……。何個顔を持ってんだよお前は……!」
ああもう!頭がクラクラする。あの哲学大好きな変人が、こんな表情を見せるなんて……。
「けど、想像以上にドキドキするね」
「そりゃ、俺だって震えっぱなしだもん!」
「ふふ。僕の罠に上手く引っかかってくれたね」
「なっ!?」
さっきまでのことを思い出す。ケーキの件といい……。
「一葉っ!ケーキでエロい言い方してたの、わざとだろっ!」
でかい声で言うと、一葉は舌を出しておどけた。〜〜〜〜っ、こいつはホントに……もう……!!
「官能的な表現を使ったら、志津はどう反応してくれるかなって……」
「俺を試すなっ!しかも色々飛ばしすぎだろ!手も繋いでない、ハグもしてない、頭も撫でてないのに……まさかキスをするなんて……」
「……嫌だった?」
「そんなわけない、その……嬉しかった。死ぬほど嬉しくて幸せだ」
……ったく、掴めないやつだ。でもなんだかほっとした。
「一葉が怖がってないみたいでよかった」
「うん。志津になら何されてもいいよ。もう僕の許可とか待たなくていいから、我慢しないで、いっぱいして?」
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