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5.相馬がモテる理由1

昼休み、購買で買ったパンを齧りながら、mp3プレイヤーで音楽を聴く。 目の前で相馬が何か言ってるけど、聞こえない。聞いてやる義理もない。 両腕を持って揺すられたから、その手を払いのける。 相馬はやたらと悲しそうな顔をして、「かどや」と口を動かした。 顔を背けると、右の席の田中と目が合った。 田中の両手が伸びてきて、耳にしっかりはめ込んだイヤホンを外される。 「角谷、相馬が煩い」 「角谷ぁっ、なんで無視すんだよー!」 ……なるほど、これが永遠繰り返されていた訳か。これは煩い。 「煩い、駄犬(だけん)」 「えっ、そんな…っ」 褒めてないぞ、俺は。なんでそこで照れる? 「俺が抱くんだから、角谷はそんなこと気にしなくていいんだぞ。抱けん、なんて」 「抱けん、じゃねーよ!駄犬だよ!この馬鹿犬っ!!」 「えっ…、それじゃあ、角谷から?……いや、それは困る。考え直してくれ」 こいつ…は……、本当に………。 「田中、相馬は馬鹿なんだ。こいつの言ってることは気にしないでやってくれ。可哀想な奴だから」 「…あぁ、そうだな。見た目と運動神経だけは無駄にいいのにな…。残念な奴だ」 「えっ、なんで俺残念なの!? 兄ちゃんもカッコいいよ!」 その兄ちゃんも、男と付き合ってるしな…。 「意味わかんねーし…」 可哀想な相馬の頭を───いや、可哀想な頭の相馬をぽんぽん撫でて、田中は食べ終えたパンのごみを捨てに行く。 誤解、されてないと思うけど……。 「お前な、ああいうこと人前で言うな。お前がホモだと思われたら困るだろ?」 「困らないよ。だって俺、……角谷を好きなことに、後悔なんてしないから」 「え……」 「角谷、今のいい感じだった?昨日兄ちゃんに愛の何たるかを教わったんだ」 って、コノヤロウ………。 一瞬、泣きそうになっただろーが。 ホントに愛されてんのかもって、勘違いしそうになったろーが! 馬鹿っ!馬鹿相馬!! そして俺の馬鹿頭! 「俺は、嫌だからな。相馬を好きなことを誰かに馬鹿にされたり罵られたりしたら、絶対泣くから」 「…うん。大丈夫、角谷は俺が守るよ」 「大体、俺は男同士でも、女同士でも、愛を貫いてる真剣な奴を馬鹿にする奴らは嫌いなんだ。だから、」 お前みたいに気持ちを軽んじる奴だって…… 「俺、角谷のそういうとこ凄い好き」 「は………はぁっ? お前っ、そういうっ、馬鹿にっ……フザケッ」 「フザけてないって。すごくいいなって思う。尊敬してる」 「………そうやってノセようったって、騙されないからなっ」 「そんなこと思ってないよ。…あ、でも赤くなってる顔は可愛いかも。やっぱり角谷ならイケる、俺」 「………死ね」 「ヒドい!俺、絶対角谷のこと愛しちゃうんだからな!愛されてから抱かれたくないとか言っても、もう遅いんだから、覚悟しとけよ!」 馬鹿だ…ホント、馬鹿だ……。 ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、感動し…掛けてたのに……。 やっぱり、尻に挿れることしか考えてないんじゃないか。 サイテーなゆるゆる下半身だな、お前は。

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