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11.コイビトなんだから4
腰が抜けた。
脚から力が抜けて、床にすとんと崩れ落ちた。
「角谷?大丈夫?」
大丈夫、じゃねえ……。
のぞき込もうとするから、顔を両手で覆い尽くす。
「…あ!そうか。角谷、はじめて…」
うるっせーよ!だから中学からの同級生ってイヤなんだよ。女遍歴全部知ってるじゃんか。
「角谷。はじめて、どうだった?」
ノーテンキな顔で、…この男は……!!
「るせーよ!男なんざノーカンだ、ノーカン!」
「えっ、やだやだ!ちゃんとカウントしろよ!俺が角谷のはじめてだろ!?」
「しねーよ!勝手にしてんじゃねー!コロスぞ!」
「だって!なんか、したくなったんだもん…」
したくなった、でしてんじゃねーよ……。
それに、そんな顔で言われたら、これ以上責められねーじゃん…。
「角谷ぁ…。お前さ、やっぱり俺相手じゃイヤだった…?」
「………………イヤ……じゃない…けど…」
「よかった!」
落ち込んでいた顔が、ぱぁっと光り輝く。
「けど!気持ちがないクセにすぐ手を出すお前は嫌だ!」
「気持ち、あるって」
「無い!絶対!!」
「俺、角谷のこと大好きだもん!」
「だから!それは、…俺たちが親友だからじゃん。お前からしてみたら、彼女とかより俺と一緒にいた方が楽だろうし、ずっと一緒にいたから気心も知ってるし、馴れ合いって言うか…」
せっかく、そっちからの好きの意味を解説してやってるのに、相馬は聞く耳持たないのか理解できないのか、簡単に違う違うと首を振る。
「だって俺、今すっごい角谷のこと可愛いって思って、思わず吸い寄せられてたんだぞ。親友相手にそんな風になるヤツばっかだったら、世の中大量のホモだらけになっちゃうだろ」
……悪かったな、ホモで。
てかホモじゃねーよ!お前限定だよ!もうお前の方に原因あんじゃねーかとそろそろ思い始めてるよ!
「大体なぁ、俺がお前好きじゃないなら、お前が可愛すぎるのが悪いって話になるぞ」
「……はぁ!?なんでそうなんだよ!俺なんかより、お前の方がよっぽど可愛いだろーが!」
「え……、それはない」
「引くな!…確かに180の男捕まえて、可愛いもなにも無い気もするけど…」
それでも俺には、お前のとこにブリブリすり寄ってくる女よりも、お前の方が可愛く見えちゃうんだからしょうがないだろーが。
「あ!じゃあさ、ひとつ提案!」
……こいつ。また妙なこと思い付きやがったな…。
溜め息を吐き出されたことに気も止めず、相馬は思い付きに満足そうな顔をして、座り込んだままの俺に手を差し出す。
「お試し期間を設けよう」
「…なにを試す?」
「とにかく一回付き合おう。そんで、角谷に俺のこと好きかどうか考えてもらう時間を作ろう」
馬鹿か……。そんなん考えるまでもなく、ハナからお前のことは好きなんだよ!
「趣旨がすり替わってる。俺じゃなくて、お前が俺を好きになったら、って話だったろーが」
「俺は角谷のこと好きだもん」
「~~っ!!だーかーら!」
「じゃあじゃあ!俺の本気が伝わったらってことで!」
相馬の…本気……?
……それなら、いいのかな…?
そんなもんある訳ないんだから、伝わるはずもない、し……。
くそー…、なんだその虚しい賭けは…。
「……なら、お前が飽きて新しい彼女作るまで付き合ってやるよ」
「マジで!?そしたら一生俺と付き合うことになっちゃうよん」
そんなフザけた語尾の奴に、一生なんか有り得るか。
「その代わり、俺に本気が伝わるまで、勝手にキスとかすんじゃねーぞ」
「うっ……、それは、その場の勢いで、止まらないときとかあるし…」
「極力我慢しろ。それ以上は一切禁止だからな」
「うん。極力我慢する」
「だから極力我慢はキスだけで、……お前、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ。じゃあ、帰ろっか」
不安が胸に押し寄せる。
こいつ、ヤリたくなっても極力我慢で済ませようとしてないか…?
極力我慢したけど無理でした、で押し切ろうとしてないか?
だけど、これ以上言いきかせてもなにも変わらないだろう。
ならば、仕方ない。
契約成立───か。
再度差し出された手を掴んで、床から立ち上がった。
そして俺は1人、また深みへと堕ちていく。
無邪気すぎる俺の好きな男は人の気も知らずに、嬉しそうに目尻を下げて笑った。
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