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15.ツインテールの女の子4
「角谷…?」
考え込んで視線の下がっていた俺の耳に、渋い低音ボイスが響いてきた。
この声───
「獅堂 …!」
天の助け。近付いてきた獅堂の手をパッと掴まえる。
「どうした?角谷」
獅堂も去年のクラスメイトで、友達だ。
ボーッとしてる美島と、一緒にボーッとしちゃってた俺が陽だまりで微睡んでると、「次移動教室だぞ」なんて笑って迎えに来てくれるのはいつだって、少し強面のこの男だった。
包容力があって優しいのに、見た目のせいで恐がられちゃう、損な奴。
上背があり、威厳と迫力を併せ持つ剣道部主将の登場に、今まで押せ押せだった女子はビビった様子で一歩離れる。
「獅堂は、これから部活?」
「ああ」
部活、か…。それじゃあ、一緒に帰ろうってわけにはいかないか。
だけど、
───獅堂、助けて!どうか俺のSOSを受け止めて!!
精一杯、視線と心の内で呼び掛ける。
「角谷…」
頭にぽん、と掌が乗せられた。
見上げると、フッと微笑む。
「先日頼んだ件だが、今時間は平気だろうか」
「う、うんっ!一緒に行く!」
「すまないが、角谷は貰っていく」
長身の獅堂は一歩一歩が大きくて、それが足早に歩くものだから慌てて小走りに追いかける。
角を曲がってしばらく、獅堂は歩みを止めた。俺は止まりきれずに、獅堂の背中に顔を突っ込む。
「いたた…ごめん」
「平気か?」
「うん、平気平気。それから、どうもありがとう」
「いや」
首を振った獅堂は、少し笑いながら、あれで良かったのか?と尋ねる。
「うん。すごい助かった。相馬のことで絡まれてさぁ」
「相馬、か…。お前も大変な友人を持ったな」
「ん…、でも、俺が好きで付き合ってるから」
好きで一緒にいたいのだから、嫌な目にあっても文句は言えない。
それがどうしても許せなかったら、友達であることをやめればいいって話だ。
俺は、相馬の親友ポジションを捨てたくはないから。
気の強い女子に、絡まれたって……。
「部活前にごめんね、獅堂」
「いや。役に立てたのなら良かった。じゃあ、俺はこれで」
「うん。ありがとな。部活、がんば…」
「角谷ーっ!」
……なんだろう。何処からか、不吉な声が聞こえ来る。
「角谷…?」
「…うん」
苦笑いする獅堂に、半笑いで頷いた。
「角谷いたー!」
曲がり角で、キュキュッと音がする。上履きの底でブレーキをかけた相馬が、鋭角に曲がってこっちに駆けてきた。
「角谷!急に居なくなるから心配したんだからな!」
息が切れてる。散々走り回ったのかな。
廊下を走って、先生たちに怒られなかったんだろうか。
まったく…、考えなしの馬鹿なんだから。
「図書室の前で美島が、愛奈ちゃんに連れてかれたって教えてくれて、そんで、また、走って…」
「ああ、さっきの女子が、C組の巨乳だったのか」
相馬がこの前フッたって言ってた相手か。それならあの態度も納得だ。
「そう。巨乳、いいよね。───じゃなくて!」
なんだそれ。なんでお前、一回ボケてみせた。
「お前の好きな相手は誰なんだって訊かれて、絡まれたぞ」
「えっ?そんなん角谷に決まってんだろー?やだなぁ、改めて聞きたいとか」
「俺じゃねーよ!C組の巨乳が聞いてんだよ!」
なに照れながらほざいてやがる!
相馬の頭を一つ小突いて、また俺は獅堂にも、こいつは馬鹿なんだ、気にしないでくれと説明しなくてはいけない。
「で、あんましつこいから困ってたら、獅堂が助け出してくれたんだよ」
「あっ、それは…、うちの角谷がお世話になりまして」
相馬が獅堂に頭を下げる。
俺はもう一度相馬の頭をはたき落とした。
「母親か!違うだろ、お前が謝んのは、C組の巨乳が俺に絡んだ所為で獅堂に迷惑かけたことだろうが!」
「角谷、大丈夫だ。迷惑をかけられたなどとは思っていない」
「…獅堂ぉ……」
なんて男前なんだ…!
男はやっぱりこうでなくちゃな。
「あーっ!角谷!獅堂に惚れちゃダメだ!お前の処女は俺が貰うんだからな!」
「っ───ばか!誰がやるか!!」
本当は避けられるくせに、相馬は3回目の俺の拳を脳天に思い切り食らって、床に落ちた。
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