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16.約束して1
執拗に、相馬の言うことは気にしないでくれと伝えて、獅堂と別れた。
仕方ないから相馬を連れて、図書室へ戻る。
俺の姿を確認するなり、美島が受付から立ち上がった。
「角谷…」
「心配してくれたんだってな。ありがとう、美島」
大丈夫だと告げると、美島はホッとしたように椅子に腰を下ろした。
「なぁ、角谷、本借りるの?」
さっき美島から教えて貰った棚を物色していると、相馬が小声で訪ねてくる。
「うん。お前も借りれば?」
レポートは、安土桃山時代の武将から1人を選んで生涯を年表に書き出せ、というテーマだ。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。メジャーな武将は資料になりそうな本も多い。
だけどこの3人は他の奴らと被りそうだし…。
明智光秀、森蘭丸、伊達政宗、真田幸村、武田信玄、上杉謙信、毛利元就、石田三成。ここらもメジャーかぁ。
やっぱり学校の図書室じゃ限られてくるよな。
大谷吉継、島左近、本田忠勝、柴田勝家。
……ん~、誰が面白いかな…?
「ねえねえ、角谷。竹中…ハンヘイエイって誰?」
面白いなお前は!
「竹中はんべえ、秀吉の軍師だった武将」
「じゃあ、こっちは黒田官…べえ?」
「そうそう。賢い賢い」
「おーっ、当たった」
そもそも高校通ってる身で、それを読めないことが驚きだけど…。
喜んでる相馬が可愛いから、許す。
「でも、なんで急に戦国武将の本?」
「……はっ!?」
首を傾げる相馬を見つめ返す。
───あぁ……。そういうパターンも有りなのか…。出ている宿題を忘れ去る、とか。
ちゃんと授業聞いてんのかなぁ。ちょっと心配になる。
「相馬、お前は黙って織田信長の本を借りろ。俺が手伝ってやるから」
「えっ、なにを!?」
「日本史のレポートだよ」
「………あーーっ!」
ようやく気付いて叫んだ相馬の口を慌てて押さえる。
「相馬っ、五月蝿い!」
ここは図書室だっつーの。
「ごめんごめん」
っ……ばかっ、しゃべんな!息が、掌に当たる…っ。
手を離して、深呼吸する。
「角谷は誰の借りんの?」
っ───暢気だな!お前は!
背後から抱きついてくんな!そんな密着されたら、体が……っ、反応しちゃうだろーが……。
「やっぱり織田信長?」
………なんて、焦ってるのは俺だけか。
「……松永久秀にしようかな。面白そうだし」
「じゃあ俺もそれにしようかなぁ」
「松永が何した人か知ってんの?」
「えっ……」
こいつ、名前も知らないと見た。
「せめて、聞いたことある武将ぐらいにしとけ」
「うーん…、じゃあやっぱり、角谷オススメの織田信長にしとく」
一冊だけ有った松永久秀の本と、年表が付いている織田信長の本を相馬の代わりに選んでやった。
こいつに俺と同レベルの本を読ませたところで、2ページも進まずに寝てしまうことは分かり切っている。
そこから集めた情報を年表にして書き出そうなんて、到底無理な話だ。
お前は年表丸写しでいい、丸写しで。
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