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19.相馬の風邪2

「角谷…、色っぽい……」 「知らねえよ!」 上半身を起こした相馬は、ベッドに置いた手をぎゅっと握りしめてくる。 男に対して色っぽいとか、んなわけあるか。アホかっつーの! 大体、高熱だして目ぇ潤ませてるお前の方が、よっぽど色っぽいだろーが。この馬鹿め。 「おい、そんなことはどうでもいい。俺は昨日、お前に部活休めって言ったよな」 「あ……、いやぁ……あれぇ?」 「ごまかしてんじゃねえ。言ったよな」 「………はい。言われました…」 「俺になんか言うことあるか?」 「……ごめんなさい」 すまないと思うなら、言うこと聞けよな。 思いを込めて見つめると、すっと目を逸らされた。 「でも、今日は部活無いからさ、学校休んでもいいかと思って…」 気まずそうな顔をして、言い訳する。 ……そうか。俺と違って相馬は、テニス部のエースだから…。 部活に真剣で、勉強よりも大切なんだ。 学校ではテニス部が一番で、他のことは全部二番以下。 …なんだ。 合点がいけば、すべてにストンと納得できる。 好きなこと分からせてやるとか言っておいて、部活のない日なら休んで平気なんて、 「俺に会わなくても平気なんじゃん…」 やっぱり、相馬の好きは、俺の好きと違うんじゃないか……。 部活、サボっちゃったし、俺は部活に不真面目で…、相馬に一方的に文句言って、無理に謝らせたりして。 ……なにやってんだろな、俺…。 これじゃ、そういう好きじゃないんだって気づく前に、相馬に嫌われちゃう。 「かど…」 「…相馬、ごはん、食べた?」 相馬が何か言い掛けたのに、被せて言葉を止めてしまう。 タイミングが合わない。今日は朝から、何をやってもうまく行かない。 「いや、今まで寝てたから」 「あ……。ごめん、起こして」 いきなり病床に押し掛けて、無理に起こして玄関まで迎え来させて、文句言って…。 俺、最低だ……。 「なにか、買ってこようか?」 「母さんがなんか冷蔵庫に入れてってくれてみたいだから平気だよ。ありがとう」 「あ…、じゃあ…」 もう、俺にできることなんて何もないってことじゃん……。後は、勝手に心配するぐらいで。 「……ごめん、起こして。帰るな」 これ以上一緒にいて、相馬に嫌われたくない。 ヤバい、泣きそう…。 胸が、痛い───。

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