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22.相馬の風邪5
ドン、と相馬を突き飛ばした筈が、逆に俺がベッドの下に転がり落ちる。
「…角谷?大丈夫?」
だっ……大丈夫なわけあるかっ!!
なんで俺から仕掛けてんだよ!?
なんでお前も普通に応えてんだよ!?
相馬が女相手なら誰でも良い奴だってのは分かってたけど、まさか男も同じなのか!?
男でも、……誰でもいいのか?
「相馬…、お前って、男相手でも…気持ちいいの?」
「えっ?」
相馬は俺の顔を見つめて、それから、考えるように顎に手を添えた。
「んー…、どうなんだろ。気持ち…いいのかなぁ?」
「………そう…」
男相手じゃ、俺相手じゃ、気持ちいいのかも分からないってこと、か。
「ごめん、帰る」
頭が混乱してる。
一緒にいられればそれだけでいいって、そう思ってるくせに、それが本音な筈なのに、気持ちいいのか分からないって言われて悲しくなった。
それじゃあまるで、自分と同じように好きになってもらいたいって思ってるみたいで…、そんな贅沢は望んでいないはずなのに……。
自分の考えてることが分からなくて、こんがらがる。
俺だけがお前を好きで、俺だけが気持ちよくて…。
相馬はきっと、この先をしたいから、自分は気持ち良くなんてならないキスを何度も俺に仕掛けてくるんだ。
そんな気持ちでエッチなんかしたって、絶対気持ちいい筈なんかないのに。
それで結局俺は相馬に、良くなかったからって一回で終えられて、気まずくなって一緒にもいられなくなって……
「……俺、もう相馬とはなんもしない…」
「えっ…、角谷…?」
「なんで親友じゃだめなんだよぉっ」
堪えていた涙が、雫になってこぼれ落ちた。
その時、
コンコン───と、ノックの音。
カチャリ、とドアノブが捻られた。
開いたドアの向こうから、
「お、やっぱり睦月君じゃん。いらっしゃい」
壱哉 さんが顔を覗かせた。
相馬の大学生のお兄さんだ。
「ん?どうした、睦月君」
この人だ…。
この人が相馬に余計なことを吹き込んだから、こんな事になったんだ!
「っ…壱哉さんのばかっ!」
そう思ったら耐えきれなくなって、突き飛ばすようにして廊下に出た。
靴を履いて玄関から駆け出す。
鍵は壱哉さんが掛けてくれるだろうから相馬は起きなくても大丈夫、…なんて、なんで俺はこんな時にもあいつの心配なんかしちゃうんだよ!!
尻穴尻穴って、人の気持ちも考えずに、緩い下半身で人のバックバージン狙うような男に、なんで俺は片想いなんかしてるんだろう…。
涙なんか止まるはずもなくて、顔を隠しながら猛ダッシュした。
せめてもの救いは、俺の家が相馬の家から、徒歩5分圏内にあることで。
なるべく人目に触れない細い路地を選んで、俺は泣きながら家を目指してひた走った。
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