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24.ブラコンのお兄ちゃん2
「睦月~?壱哉がなんだって?」
笑ってるその顔が、身が震えるほどに恐ろしい。
「え…、や……、ほら、俺が休んだこと知ったら、相馬が心配するから…」
「そうだなー、心配するだろうな~。でも、一翔 が学校行きゃ、睦月が休んだことすぐに分かると思うんだよなぁ。クラスメイトだろ?お前ら」
声と口調は限りなく優しいのに、……変な汗が止まらない。
「何があったか、お兄ちゃんに話せるな?睦月」
笑顔で頭をポンと撫でられて、恐怖のままに、頭を縦に頷かせた。
颯斗兄は、見た目は綺麗で優しげなのに、心の中に周囲の誰をも──一番上の涼司 兄 や父さんまでをも怯えさせる、悪魔を飼っている…と思われる。
それでも、壱哉さんの秘密を勝手にバラしてしまうことは憚られた。
「あの…、颯斗兄は、壱哉さんの恋人の事って、知ってる…?」
だから、先に確認を、と思ったのだけど…。
質問を聞いた瞬間、颯斗兄の眉毛がピクリと動いた。
目尻がつり上がったのは一瞬のことで、すぐに笑顔に戻る。
「俺は知ってるけど、睦月はどこまで聞いたんだ?」
「あの、相馬から、…男の人ってのは聞いてて…」
「それだけ?」
うんうん、と必死に頷いてみせると、颯斗兄は困惑の表情を浮かべ、そっと息を吐き出した。
「弟に何話してやがんだ、あいつは…」
颯斗兄はやっぱり、そのことを知っていたみたいだ。
「で?」
「それで、あの…、相馬がカノジョと別れて───」
別れた理由から、有り得ない相馬の思い付き、それから昨日のことまで、順を追って話していく。
ただひとつ、俺の秘めた想いにだけは、決して気付かれないように。
話を聞き終えた颯斗兄は、そうか、と小さく頷くと、頭を優しく撫でてくれた。
そして、にっこりと優しく微笑む。
「後は俺に任せて、睦月はゆっくり休んでいなさい」
原因不明の震えが、身体に走った。
顔を向こう側へ向けた瞬間、その顔から笑みが消えたのを見た気がして、慌てて颯斗兄の手を掴む。
振り返った颯斗兄は、やっぱり笑顔を浮かべていて、「ん?どうした?」と優しく頭を撫でてくれる。
「俺っ、相馬と一緒にいたいんだ!」
「ん?」
「ずっと一緒がいい。…嫌われたくないんだ」
「……そうか。お前はほんと可愛いなーっ」
背伸びをした颯斗兄が、ほっぺたにちゅーっと唇を押し当ててきた。
相馬にされるのとは違って、勢いがあって、……昔から変わらない、可愛くて仕方ない弟に向けるキス。
もう俺、高校生なんだけどな。
颯斗兄にとっては、赤ん坊の俺も小学生の俺も、今の俺もみんな、変わらない可愛い弟の俺らしい。
小学生までは病弱で小さかったからクラスメイトによく虐められてて、そのたびに悪者をノしてくれる颯斗兄は俺にとってはヒーローで、悪ガキ共にとってはまるで魔王のようだったってウワサ。
背は高くないし綺麗な笑顔で優しそうなのに、気性が荒くて喧嘩っ早い。
「颯斗兄…、相馬のこと、怒らない?」
「ばかだなぁ、睦月。俺が一翔のこと、怒るわけがないだろ」
「……うん」
「俺が腹立ててんのは、壱哉のクソッタレに対してだ。あんの野郎、…再起不能になるまで搾り取ってやる…」
「えっ…?」
言葉の意味を理解する前に、肩を押されてベッドに押し付けられる。
「ほら、お前はおとなしく寝てなさい。母さんには俺から言っとくから」
笑顔の後ろに、陽炎が見えた。
俺は熱もないのに寒気を感じて、慌てて布団に潜り込んだのだった。
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