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36.穏やかな休日2
「そろそろコーヒーでも淹れといてやるか」
ふと壁時計を見上げて、颯斗兄が言った。
「俺、カフェオレが良いな」
膝から下りて、キッチンへ向かう。
今日はうちに相馬兄弟が遊びに来る日だ。
涼司兄は休日出勤で、母さんと父さんは2人連れ立って出かけていった。
相馬が家に来るのなんか別に珍しくないことなのに、あの日以来初の来訪だから、なんとなく、ソワソワしてしまう。
「颯斗兄、お茶請けどうしよう。クッキーとかあったかな?」
「壱哉がなんか持ってくるってさ」
「リビングがいいかな。俺たちの部屋行く?」
「もう……。睦月、そんなに可愛いとお前、一翔にやりたくなくなるだろーっ」
むぎゅーっと抱き寄せられて、ほっぺにチューの嵐を受けた。
今日の颯斗兄は眼鏡をしているから、ぶつかってレンズが汚れちゃわないかちょっと心配。
可愛がってくれるのは有り難いけど、俺にくっついてばっかりいたら、壱哉さんが妬いたりしないのかな。
嵐が過ぎて笑顔の颯斗兄を見つめていると、玄関チャイムが鳴って訪問者の来訪を知らせた。
「颯斗兄、相馬たちかも」
「めんどくせーから無視するか」
「えっ、いやいやいや…」
再びチャイムが鳴らされると、颯斗兄は不機嫌な顔で舌打ちし、ようやく体を放してくれた。
「しつこい」
そんなこと言って。本当は壱哉さんに会えるの、楽しみにしてたくせに。
コポコポと珈琲のおちる音が、その証拠だ。
玄関を開けて、相馬兄弟を迎え入れた。
「角谷ぁっ、会いたかったよ!」
いきなり抱きついて来ようとするから、相馬の腹に足の裏で蹴りを入れて剥がす。
「昨日も学校で会っただろーが」
「そんでも、プライベートで会うのは違うだろー?学校と違ってイチャつけるし」
「イチャつかねーよ」
素直じゃないのは、俺も同じか。
それでも楽しそうに笑ってる相馬の右手の指に、自分の指を通してぎゅっと握った。
「…こんぐらいじゃ、イチャついてるに入らない…と思うし…」
恥ずかしくなって、少し俯く。
「じゃあ、俺も」
前髪がふわりと上げられて、唇が押し当てられた。
「こんぐらいじゃ、イチャついてるに入らな───」
「入るわ馬鹿!テメェうちの弟になに手ェ出してやがる!」
ベシンと頭をはたく音。
相馬は良くうちの兄ちゃんに殴られてるな…。
「あぁっ、颯斗、待って!一翔がますます馬鹿になる!」
弟を庇うため、慌てて壱哉さんが間に入る。
「これ以上成りようがあるか!」
「なるなるっ!一翔は俺と違って勉強も不出来なんだ。睦月君と同じ大学行けなくなったら可哀想だろ」
「はぁ!?一翔おまえ、睦月と同じ大学行くつもりなのか?」
「えっ、相馬の頭じゃ無理なんじゃ…」
「「なんで2人してそう言うこと言うの!」」
相馬兄弟が寸分違わず不服を唱えた。
双子か、お前らは!
可笑しくて、颯斗兄と顔を見合わせて笑ってしまう。
「そんなことより、とっとと座れ。デカいのにウロウロされると落ち着かない。邪魔」
今コーヒーを淹れてくるから、座ってゆっくり待ってて下さいって、颯斗兄は言いたいんだろう。
「あ、颯斗、これ土産」
壱哉さんがキッチンについていくから、遠慮してリビングのソファーに座る。
2人はあんなだけど、先に好きになったのは、颯斗兄の方だったらしい。
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