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37.穏やかな休日3

壱哉さんは相馬よりも最低で、女の子は皆大好きだから、特別なんて作らないで皆と遊ぼう、って人だったそうだ。 モテる男がそれをやるのだから、手に負えない。 それでもやっぱり壱哉さんも、男友達にはイイ奴で、同性の友達も少なくなかったとか。 中学のころ颯斗兄は、壱哉さんの大勢いる友達の1人でしかなかった。 いつから好きだったのか、颯斗兄は自分でもよく分からないらしい。 俺と、同じだ。 未だにどうして好きになってしまったのか分からないところも、俺と一緒だ。 中学の同級で同じ高校に進んだのが他にいなかったから、偶然同じクラスになったから。気づいたら弟たちも仲良くなっていて、そこから更に仲も深まって……。 すべてが偶然の産物で、好きだと……恋しいと想うこともきっと、その偶然が運命に思えたような勘違いなのだろう、と。 男なんか好きになるわけがあるか、と、颯斗兄は自分の心を何度も否定して、想いを偽りのものだと言い聞かせていたらしい。 皆で一緒にいるとき、男友達と遊んでいるときですら、女子にねだられてはハグをして、キスを贈る軽薄な男。 そんな男を、好きになるわけがない。 ズキンと痛む胸の内を気のせいにして、何度もやり過ごしたそうだ。 当時そんな颯斗兄の気持ちを知っていたら、俺は絶対に壱哉さんを嫌いになっていたと断言できる。 そしてきっと、その弟の相馬のことも……。 そう言えばあの頃相馬の家に遊びに行くと、時折会った壱哉さんはいつも違う女子を連れていたように思う。 「いらっしゃい」と口では言うくせに、必ず「外で何か食べてくれば?」と、相馬にお金を握らせるんだ。 その頃は良くわかっていなかったけど、……ほんと最低だな、壱哉さん。 キッチンの背中をギッと睨みつけると、視線に気が付いたのか、壱哉さんが振り返ってへらっと笑った。 「えぇと…、なにかな?」 「…んでもねぇよ。……チッ」 颯斗兄のこと、泣かせやがって…、このクソ租チン野郎が。 もう一度舌打ちをして、ふと自分も大概ブラコンだよな、と思い当った。 涼司兄は父さん似だけど、颯斗兄は俺と同じ母さん似、ってのも、関係あるんだろうか。 まあ、小さい頃からずっと誰より可愛がってもらってたら、こうもなるよな。 「角谷…?」 少し怯えた顔で、覗き込まれた。 ……壱哉さんに比べたらお前はマシ。 「膝枕」 「えっ…はい」 両手を万歳した相馬の膝に、ポスンと顔をうずめた。 てめぇの兄貴が怒らしたんだ。てめぇが癒しやがれ。

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