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40.兄たちの事情2

ロマンスカーに乗り込むと、流石に大声で遣り合うわけにもいかず、2人は静かに席に着いた。 窓側に座った颯斗は肘をついて、黙ったまま窓の外を眺める。 「…あの、颯斗さん…?怒ってらっしゃる…?」 様子を窺うように、壱哉が声を掛けた。 颯斗は振り返らずに、応じもせずに、窓の外を眺め続ける。 「…やっぱり、俺と2人じゃ嫌だった?…颯斗、俺と2人になるの避けてる気がするし、俺のこと…」 「…るせーな。テメェに誘われたんじゃなきゃ行かねぇよ、温泉なんか。めんどくせー」 「えっ……、それほんと!?本音!?俺のこと好き!?」 「うるせぇ、黙れ。大騒ぎしたいならテメェの好きな女共と一緒に行け。俺は、静かな方が好きなんだよ」 「…うん……。静かにしてるから、2人で行こう」 小声でも聞こえるようにと、壱哉は颯斗の耳元で囁きかける。 普段とは違う静かな声と共に吐息が耳に入り込み、颯斗はその身をフルリと震わせた。 赤くなった顔をそろりと向けると、壱哉の体を思い切り押しのける。 「これ以上こっちに寄ってくるな!この線からこっちは俺の陣地だからな!」 「あっ、懐かしい。やったよなぁ、小学生のころ」 「小学生とか言うな、ばか!」 「えー?ばかって言うなら……えいっ、侵入!」 「っ…ひぁっ……テメェばかっ触んなっ!」 「颯斗、腰弱いんだぁ。弱点ひとつみっけー」 「放せヘンタイっ!」 ガツン───と頭に一発食らわせると、壱哉は颯斗の膝に突っ伏して、そのまま大人しくなった。 「……おい?」 後頭部を小突いてみるが、返事はない。 「…痛かった……?」 「……昨夜、楽しみ過ぎであんまり寝られなかったから…」 「……ガキ」 「ちょっとだけ、こうさせといて」 「……別に、いいけど。女と違って膝硬いとか、文句言うなよ」 「言わないよ~。へへ~」 「…なに笑ってやがる……」 「いや。…颯斗いい匂い」 「っ……うるせぇ」 人の気も知らないで、暢気に擦りつきやがって……。 俺の理性が飛んでも、俺の所為じゃない。お前の所為だからな。 お前が馬鹿だから、馬鹿みたいに擦り寄ってくるから、好きになっちゃったんだからな………。

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