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42.兄たちの事情4

颯斗はコンタクトを外して眼鏡をかけ、鏡に映った自分の顔を見つめる。 ………分からん。 男に色っぽいとか綺麗とか、……馬鹿にされてるか、からかわれてるかとしか思えない。 けれど、もしも本気でそう言われているのなら、……壱哉から言われるのだけは悪い気はしないな、と少しだけ笑みが零れた。 しかしすぐに、それではいかんと顔の筋肉を引き締める。 一緒にいるとどうも、顔が弛んでしまって困る。 しかも今日はずっと2人きりだなんて………。まずい、死ねる…。恥ずかしさのあまり、執拗に罵倒してしまう。 腕枕、なんて…本気なのかあの馬鹿は。 そんなことをされたら、俺の理性は本気で飛ぶぞ。絶対壱哉のこと、押し倒す。 ん───? いや、待てよ……。 そこで颯斗はハタと有る事実に気づいた。 腕枕って、男が女にするやつだよな…? 女が男にすることもあったり…? いや、しねぇよな……。 つーことは、……あの野郎、俺に向かって女みてぇな扱いを……!? 「おい!壱哉テメェ!!」 部屋へ駆け込んだ颯斗の剣幕に、ベッドに寝ころんでリラックスしていた壱哉の顔が、一瞬にして強張った。 「なっ、なに!?…ですか!?」 「俺に腕枕ってテメェ、何様のつもりだ!?」 ベッドへ乗り上げて、壱哉の胸ぐらを掴み押さえつける。 「えっ!?なんで怒ってんの!?」 「どっちが男だかその身に分からせてやるよ…」 「えっ?あれっ?颯斗さん…っ!?」 「壱哉テメェ、ぶち犯す!」 「えっ、えっ!?ちょっ、待っ…」 颯斗が壱哉の体に飛びかかった。 ベッドが大きくバウンドして、端に乗っていたテレビのリモコンが床に転がり落ちた。 大きな音がしたのは一回きりで、しばらく弾んでいたベッドもやがて静かに揺れを収める。 両手首が枕の上で束縛され、足も絡み付かれて。 身動きがとれなくなった。 「…なんで俺が押さえつけられてるわけ…?」 疑問を吐き出した口元が、怒りで震えていた。 襲いかかったはずが、一瞬のうちに逆転されていた。 いつのまにか自分が、下になっていたのだ。 「だって、俺の方がデカいし、力あるし、…犯されんのやだし…」 至極尤もな理由を述べた壱哉から、顔を逸らして颯斗はため息を付く。 「なら、ツインで取れよ。分かんなかったら俺に聞け。つか、端から俺のことなんか誘うんじゃねえ」 怒りが理性に勝って、暴走してしまった。 せっかく同じ大学に進学したというのに、久し振りどころか、縁切りレベルだ。

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