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45.兄たちの事情7
あーっ、もう!だから嫌だったんだよ…。
颯斗はうつ伏せに身体を転がし、顔を布団に押し付けた。
人前で……こいつの前で泣くとか、あり得ねえ…。
なんだよ、コイツ…。ヤられるくらいならヤっちまえってーの……?
女好き、ヤリチン、ゆるおつむ、脳ミソ下半身、脳チン…。
お前の好きな女じゃねーんだぞ。男なんだぞ、俺は!
お前に犯されたって、嬉しくなんか……、お前に襲われてキスされたって、気持ち良くなんて……
「───クソッ!死にたい!!」
「なっ、なにを言い出したのお前は!?」
「なんなんだよ、テメェは!」
猛スピードで這い寄り、壱哉のズボンを下着と共に引きずり下ろす。
そして中身を確認すると、颯斗は赤く染まった顔を掌で押さえた。
「……なんで、先走ってんだよ…」
「えっ、いや、だって、颯斗がエロいんだものー。………って、あれ?颯斗?颯斗さーん!」
「……………馬鹿、穿け、変態」
「自分で脱がしといてのそれ!? さすがにヒドいよ、颯斗……」
再び颯斗が自分から離れて布団に突っ伏してしまったものだから、壱哉は先をティッシュで拭き取り渋々下着とズボンを上げる。
「颯斗はさ、気持ち良くなかったのかよー」
壱哉がティッシュ箱をポーンと投げつける。
颯斗はこっそりティッシュを一枚取ると、布団の上でもぞもぞと動いた。
「良くなかった!」
「じゃあティッシュ返してください!」
「テメェのじゃねーだろ。ホテルの備え付けのだから返さない」
「じゃあ、颯斗もパンツ脱いで見せろよー」
「誰が見せるか、馬鹿」
「なんだよ~、濡れ濡れのくせに」
「言ってろ、変態」
「変態じゃないって。お前も見たんだから、俺にも見せろー」
壱哉は背後から手を回すと、颯斗のズボンのチャックをまさぐる。
颯斗は溜め息を吐き出し、声を暗くした。
「…変態だろ。男も女もイケるとか」
「あ、それは違うぞ」
半分からかっているようだった壱哉の視線が、急に真剣味を帯びたものに変わった。
「俺は女の子が好きなの」
何を言うかと思えば、今更なカミングアウトだ。
「知ってる」
不機嫌な顔を向けて、颯斗はティッシュ箱を壱哉に投げつける。
「でも、これは知らないだろ」
壱哉は箱を宙で受け止めると、元々置いてあった場所にそれを戻した。
ベッドに身を戻して、顔だけこちらに向いた颯斗の頬を掌で優しく撫でる。
「俺は女の子よりも、颯斗のことが好きなんだ」
「…………はぁ!?」
「ちょっ、はぁ!?ってヒドくね!?」
「いや……はぁ!? テメェ、ケンカ売ってんだろ!」
「売ってねーよ!こちとら真剣だよ!!一世一代の告白だよ!?」
「いや、あり得ねえ。テメェに好かれる要素が俺にはねぇ」
「あるよあるよ!すっげー好きだよ!」
「あり得ねえっつーの!」
「ほら、今キスしただろ!今までの中で一番感じた!滅茶苦茶気持ちよかった!」
「それがどうした」
「父さんから聞いたんだけどな、皆おんなじ気持ちいいは、皆たいして好きじゃないってことなんだって。ほんとに好きな人とのキスとかは、ほんっとーに気持ちいいんだって。特別なんだって」
「…テメェ、なに言い出しやがった。あれか?好きかどうか試しにキスしてみたって話か?そんなん、俺が特別巧かったら好きだって勘違いする可能性も…」
「違う違う!なんでそーなんだよ!大体、颯斗だってあんなに気持ちよさそうにしてたじゃないか!」
「あー、テメェがキスが巧いって自慢話か?言っとくがな、俺は他となんか比べらんねーぞ。さっきのが初めてだからな」
「えっ……?」
「初めての相手に滅茶苦茶遣りやがって。ヤるならヤるで手加減しろ!」
「えー…、マジで?」
「ニヤニヤしてんじゃねー!……もう、恥ずかしくて死ねる」
「だから死んじゃだめだって」
顔を隠した両手を優しく外し、愛しそうに微笑むと、頬にちゅっと口付ける。
「好きだよ」
「なんだソレ。俺のこと騙して、皆でからかうつもりか?」
「なんでそうなんだよ」
顔を逸らした颯斗の耳に壱哉の唇が触れた。
「颯斗が好き」
「……俺の前で、散々女とイチャついてたくせに」
「だって、颯斗の反応が知りたくってさ。でも、キスって言っても口がぶつかるぐらいのもんだったでしょ。……もしかして、意地悪だった?」
「……意地悪…してんじゃねーよ、ばか…」
「だって颯斗、俺のこと好きみたいなのに、2人になろうとすると逃げちゃうし。まぁ、そんなとこも初心 で可愛いなぁって思ってたんだけど、そんでもあそこまで避けられると、自信家の俺でも流石に不安になっちゃうだろ。好きならちゃんと好きって態度取れよなー」
「取れるか、ばか。男同士で」
「俺だけにこっそり分かるようにしてくれりゃあいいじゃん」
「お前には一番、気付かれたくなかったんだよ」
「何でそういうこと言うんだよ…」
「…気持ち悪いとか、友達やめるとか言われたら、生きてけない……」
「……颯斗っ!」
指先で颯斗の顎を弄んでいた壱哉が一変、その体に勢いよく抱きついた。
「颯斗!好き!颯斗は俺のこと、いつから好きだった?」
「うるせーよ、ばか」
「うん、ずっと好きだったんだな。好き」
「好き好き言うな、ばか」
「やっと言えたんだから、沢山言わせろ。それに、颯斗も言えよ。俺のこと、好きって」
「………」
「なんでそこでだんまりなの!?」
壱哉が口を尖らすと、颯斗はその顔を見つめ、少し目を細めて考え込んだ。
「……壱哉」
「はいはい、なんですか?」
そして、その背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「いつか他の奴を好きになるぐらいなら、ここで振り払えよ」
「俺のこと、信じらんない?」
「……信じて欲しいなら、日頃の行動を悔い改めろ」
「改めるよ。もう、颯斗しかいらないし、颯斗しか見えない」
「……男相手にキモイ…」
「ヒドい!そんなこと言われたら俺が死んじゃう!」
「……それじゃ、死ぬ前に全部、やるよ。俺、お前だったら…される方でもいい…から…。お前は、ヤられんのは嫌なんだろ?」
返事を聞くことはできなかった。
声を上げる間もなく、唇を奪われた。
シャツの裾が捲り上げられ、胸を弄られる。
……このケダモノめ。
爽やかぶってるくせに、女相手にだって向こうから来られなきゃ自分からは手出ししなかったクセに。男の本性丸出しにしてがっつきやがって。
ちゃんと、好きなんだろうな、壱哉……?
俺が襲いかかったからそれに乗じてやり返してきたってんなら、泣くぞ。恨むぞ。
お前の好きは、誰にでも向けられてて、軽すぎて……すごく、不安だよ…。
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