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46.目下、愛されています-兄編-
───角谷家キッチン───
壱哉が持ってきた土産の箱を開けると、スポンジケーキが入っていた。
「…おい、これはなんだ…?」
颯斗が視線を向けると、壱哉は更に持っていたビニールを開けて、ホイップクリームとベリー系のフルーツをいくつか取り出して見せる。
「すごい?俺が朝から焼いてきたんだぞ」
自慢げだ。とても嬉しそうだ。
……褒めて欲しいのだろうか?
「パティシエにでもなるつもりか、お前は」
颯斗は小さく息を吐き出すと、で?とその続きを促す。
「だから、一緒にデコレーションしようぜ!」
「デコレーションまでしてから持って来い」
「2人でやるのがいいんだろ」
「あー、はいはい」
「それに、颯斗と2人きりになりたかったし、一翔たちも2人きりにしてあげたかったし」
壱哉の視線を追って、弟たちの姿を見た颯斗の眉が、ピクリと動いた。
「一翔のヤロー、デレデレしやがって…」
可愛い可愛い弟の睦月が、自分以外の男に膝枕されている。
しかもこの男の弟は、膝の上の睦月を、赤く染まった頬、潤んだ瞳で見つめながら、その髪を撫でているのだ。
図々しい!!
「はーいはい。ケーキ用意しちゃおう、颯斗」
背後からガバリと抱きつかれて、颯斗は恨めしげに壱哉を振り返った。
「ケーキ…か」
「なんだよ。ケーキじゃ嫌だった?」
不安げな顔で尋ねる。
「いや、もっと軽いもんだと思ってたから」
クッキーとか、ケーキでもロールケーキとか、と言うと壱哉は更にしょんぼりと表情を暗くした。
颯斗はその頭を軽く叩き、馬鹿と悪態を付く。
「朝から頑張って作ったんだろ」
「うん…まあ…」
「今食べるの勿体ないから、午後のおやつの時間に食う」
気恥ずかしそうな颯斗に、壱哉の顔に一気に笑顔があふれた。
「そう?じゃあ、冷蔵庫しまっておこうか」
「ん…」
冷蔵庫に持ってきたものを入れて、扉が閉まると同時に颯斗の肩に手を乗せる。
「じゃあお腹の空いてる狼さんの俺は、何を食べればいいんでしょうか?」
悪戯な顔。
唇が触れるほど耳元で囁かれて、
「壱哉キモイ…」
颯斗はうなじまでもうっすら赤く染めた。
「そんなに腹減ってるなら、…俺のことでも食えば…?」
「うん。いただきまーす」
頬に添えた手で促すと、素直に顔が上を向く。
「今日は眼鏡なんだね。俺のため?」
「…っかじゃねーの。レポートで目が疲れてるんだよ」
「でもいいや。色っぽくて…いつもより感じる」
「……ヘンタイ」
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