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第8話 ルーティンはいつもこれです
あれからニコは学校に戻って授業を受けたが、バーヤーンに会うことなく、一日を終えた。
後半は平和だったと屋敷に戻り、タブラと先日連れ帰った魔族の様子を聞く。先に連れ帰った魔族はどうやら魔力もそんなになかったようだ、今日明日が山でしょうと医師に言われ、悔しい思いをしながら部屋に戻った。
ニコは詰襟の黒服から部屋着に着替えると、夕食までのルーティンをこなす。授業の復習をし、明日は休日なので休み明けの授業の予習をする。記憶の定着は毎日の積み重ねだと、お祖母様の御本に書いてあった。なぜか家庭教師が、主人公の耳元で公式を囁くという内容だったけれど。
そして、予習が終わった頃に夕食だ。珍しく祖父である魔王に一緒に食事をと誘われたが、ニコは落ち着いて食べたいので遠慮する。
夕食が終わると趣味の時間。帰宅から寝るまでは大体毎日この繰り返しだ。最近はお祖母様が書いた書籍や、人間界の東方の国から取り寄せた本を読むのにハマっている。
「ふむ……人間にも異世界という概念があるんですね……」
中でもニコは、人間が異世界に行き、文化や生活がまったく違う地域で戸惑い、それを助けてくれる騎士や王子と出会って恋に落ちる話が気に入っていた。ニコのハジメテのキスへの概念や、貞操観念はこういった本から学んだと言っていい。
魔族の考え方からすればとても甘っちょろい。けれどニコは、それがとても素敵だと感じるのだ。
「……この詠唱では、せいぜいウルフくらいしか倒せな……ええっ? ドラゴンも倒せるんですか!?」
人間もなかなかの魔力の持ち主ですね、と独り言を言いながら本を読む。部屋に一人きりなので独り言は言い放題だけれど、はたから見たら痛いひと……いや、痛い魔族だ。
「しかしこの御本は繊細な絵ですね……どんな魔法で描かれているのでしょう……?」
人間界への興味は尽きない。魔界に絵画を楽しむという文化はないが、ニコはこの『マンガ』という本も好きだった。お祖母様が好きだから、自分も好きだと感じるのかな、なんて思ってページをめくる。
「……おっと、もうこんな時間ですか」
時計を見ると、次のルーティンの時間になっていた。ニコは本を閉じると、部屋の中でも十分な広さがあるところに立つ。
深呼吸をして体を伸ばし、ストレッチを始めた。それから軽くスクワットや腕立て伏せなどの筋トレをし、最後はバーピージャンプという有酸素運動と筋トレを兼ねた運動をやって、最後はまたストレッチと深呼吸に戻る。
精気切れを起こさないように、ムラムラを抑えるためにニコが考えたルーティンだ。運動をすれば少しは発散できる。ムラムラしたら運動、ニコの鉄則だ。
「それにしても、お父様に似たのか全然筋肉が付きませんね……」
汗をかいて風呂に入るために入った浴室で、鏡を見ながら呟く。貧相ではないけれど、細身なのは筋トレをしていても変わらない。ショウは小柄で細身だから、できればリュートの方に似たかったな、とニコは思う。性格はどちらかというとリュートに似ているけれど。
すると淫夢で見た、バーヤーンの身体が脳裏に浮かんだ。しっかり付いていた筋肉はバランスがよく、あれが人間界で言う細マッチョと言うやつか、と思いかけて首を振る。
所詮夢の中だ、バーヤーンがあの場からすぐに去ったように、彼は何も気にしていないのだろう。だからこちらが気にしても仕方がないことだ。
「……」
おかしい。先程運動したのに落ち着かない。でももう寝る時間だし無理矢理にでも寝よう、とニコはベッドに潜り込む。
(無になれ無になれ無になれ無になれ無になれ……)
頭の中で呪文のようにそう繰り返し、眠くなるのを待った。けれどニコの意思に反して、下半身に熱が溜まっていってしまう。
ニコは起き上がった。そうだ、ムラムラしたら運動だ、とベッドから降りる。
「うおおおおおおお!」
叫びながらその場でランニングをした。腿を九十度になるように上げ、できるだけ速く動かす。手は開いて大きく振り、負荷を掛ければ掛けるほどいい、と色んな筋トレを試した。
けれど結局ムラムラが解消されることはなく、ニコは疲れ果ててベッドに倒れ、そのまま寝落ちしたのは朝方になってからだった。
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